ジリジリと照りつける日差しが少し和らいできたある日の午後、私の携帯が彼女からのメールを受信した。
同世代の彼女とは、お互いのライフスタイルが変わった今でも心安い間柄だ。
ライフスタイルの変化というのは、数多くの刺激と共に新しい喜びももたらす。
と同時に、「これは何の試練だ?!!!」と軽く発狂してしまいそうな程に、酷な現状を突き付けてくる事もしばしば。
心が折れそうでたまらなくて、友の声を欲していても、目の前の事と向き合い、こなしていかなければならない。
誰もがそうやって過ごしているのだと頭で分かってはいるものの、こころの中にはどんよりと灰色の雲が浮遊する。
彼女もそのような状態だったのかもしれない。
「急で申し訳ないんだけど、今日、少しだけ会えないかな?」
私の心が少しざわついた。何かあったのかな?と。
その日は外せない予定があり、その旨を伝えた上で理由を尋ねると、特に何かがあったわけではないのだけれど、何となくと言う彼女。
何とかお互いの日程を調整し、数日後に彼女の家でランチをする事にした。
当日会った彼女の外側はとても元気そうに見えた。
しかし、何となく心の奥、彼女の内側に灰色の雲が浮遊しているようにも感じられた。
お互いに近況報告をしながら、くだらない話で大笑いし、ひと息ついた。
「で、どうしたの?」
少し緊張しつつ、私は訊ねてみた。
彼女の口からは、自分は何もできていないのだと返ってきた。
子供が小さいから働いていない。
家の事と子育てしかしていない。
だけれども、子育ても不安いっぱいで、合っているのか心配。
子供に何かあったらと思うと、怖いくて心が休まらない。
家事も全部できなくて、所々手を抜いてしまっている。
結局何もできていないし、してあげられていない、と言うのだ。
頑張って笑顔を作りながら話す彼女に私は胸が締めつけられた。
私から見れば、すごいなぁと尊敬する事ばかりなのに。
彼女は自分で自分をどんどん追い詰めて、罪悪感に覆われているようだった。
「何もできていないなんてとんでもない。」
開口一番に私の口から出た言葉だ。
子供を育てるって簡単な事ではない。
仕事と子育てを両立させている人もいるけれど、それはその人が選んだ子育てのスタイルであり、その中にも色々な想いを抱えているはず。
そのスタイルを望むのならそれで良いし、望まないのならそれもそれで良い。
比べる事ではないと思うのだ。
家の事と子育てしかできない。
いやいや、家の事と子育てを出来ているじゃない。
子育ても不安いっぱいで、合っているのか心配。
子供に何かあったらと思うと、怖くて心が休まらない。
うん、うん。これは不安と恐怖が常に側にあると思う。
全てが初めての経験で育児書なるものはあるけれど、子供はロボットではないのだから、全てが育児書通りになんかならない。
そもそも、大人になった自分自身の未来だって決まっていないし、思い描いたものとは別物だ。
だったら、一喜一憂しなくても大丈夫じゃないかな?
彼女の子供を見ていると、愛情をたっぷり受けてスクスク元気に成長している。
たまに会う私には、その事が彼女以上に感じ取れるのだ。
家事も全部できなくて、所々手を抜いてしまうというコレ。
全部出来なくてもいいと思うのだけれども。
手を抜いたらダメでしょうか・・・・・・?
逆に私が聞きたい。
「だって、手を抜いたところで命まで取られるわけじゃないよ。大丈夫、大丈夫。私なんて手を抜きまくりだよ。抜ける所は抜いて、ここぞ!と言う時にビシッと決めれば問題ない。」
これを聞いた彼女は、柊希らしいと、小さく笑った。
ここから先はお互いに最近の手抜き自慢を披露し合い、手抜き術を交換し合いケラケラ笑って過ごした。
彼女の心はいっぱい、いっぱいになっていたけれど、彼女は十分に色んな事を出来ていると思う。
家族の側に居てあげられている。
笑顔を見せてあげられている。
心配してあげられている。
家族の帰りを待っていてあげられている。
他にもたくさん。
今、こころの中にどんよりと灰色の雲が浮遊しているあなた。
大丈夫。
自分が思う以上に頑張れているんですよ。
だからほら、口角をきゅっとあげてみて。
私はどんなあなたも大好きです。
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