久しぶりにバスにでも乗ってみようかと
駅のロータリーに隣接されたバス停へと向かった。
次のバスが来る時間まで間があったせいか並んでいる人も少なく、
ベンチが空いていたので腰掛けてバスを待つことにした。
程なくして大学生風の男性が横に座った。
その後少し離れた所から
ご年配の女性がこちらへ歩いてくるのが視界に入った。
少し大きな荷物と新聞紙にくるくるっと巻かれた花束を持ったふくよかな女性だ。
席を譲ろうと立ち上がると横にいた大学生風の男性も同じタイミングでスッと立った。
そして私に「僕が最後尾なので、とりあえず僕が」と笑顔で言うと
その女性を空いたベンチへと誘導した。
大学生と私のやり取りを察した女性は
ご丁寧に大学生と私にまでお礼を言うとゆっくりとベンチに腰を下ろした。
「やっと座れたわ、ありがとう」と再び言う女性の笑顔はとても可愛らしく、
くるくると新聞紙に巻かれた花束からふんわり香る花の匂いが
彼女にとてもよく似合っているように感じた。
手荷物を整え終わってひと息ついた彼女に大学生が話しかける。
大学生:「きれいなお花だね、どうしたの?」
女性 :「お友達のお家に行ったらお庭にたくさん咲いていて、
お土産にっていただいたの、きれいでしょ」
大学生:「いいね、庭にお花が咲いてるのって」
女性 :「そうなのよ、だから家に帰ったらこれを生けて眺めようと思って」
大学生:「楽しみだね」
なんて平和な会話だろう。
その後も大学生の方から話しかけている。
時々、女性の方が彼に気を使って
「お婆さん相手に話すのも疲れるし、恥ずかしいでしょ。
ありがとうね、楽しかったわ」
と名残惜しそうにしつつ会話を終わらせようとしていたが
彼のリードでその柔らかな会話はバスの中でも続いていた。
静かなバスの中、
彼らの会話は聞き耳を立てずとも自然と耳に入ってきた。
おしゃべりに花が咲くとはよく言ったものだ。
最近食べたおいしい羊羹の話。
庭の木にきれいな花が咲いた話。
お天気がいいと気持ちがいいのだという話。
老人会で始めて「ビンゴゲーム」というものをして、とても楽しかったという話。
それはそれは嬉しそうで、楽しそうで、
人生を楽しんでいるんだなと感じられる話を
これまた楽しそうに話していた。
色んな人に優しい気配りができるのであろう彼にほっこりし、
いくつになっても優しい配慮ができる女性を
人生の先輩として素敵だなと思い、
日常の中の小さな出来事を
全身で楽しいと感じて過ごしている姿にも感じさせられる事があり
私もまだまだ、頑張っていかなくては、と感じた時間だった。
普段しない事をしてみると、
新しい発見があるものだ。
そしてささやかな出来事に励まされたりもするものだ。
あなたも今日はいつもと違う何か、してみませんか?