その日の私はいくつかの用事を終えた後、
足の赴くままにショッピングモールの中を歩いていた。
まだほんの少しだけ、
年が明けたばかりの空気をまとったそこは親子連れが多かった。
お目当ての物を買うために、お年玉を持って来ているのか
子どもたちの足取りは軽く弾んでいて、
目は普段よりもキラキラ輝いているように見えた。
そんな光景を視界に捉えつつ、
私は雑貨やオーガニックの調味料、などのお店を覗いてまわっていた。
その日は、これといって心踊らされるような品物には出会えず
そろそろ岐路に着こうかと思って出口の方へと向かっていると
少しだけ奥まったスペースで公開ワークショップが開かれていた。
そこからだろう。
空調の風に乗って運ばれてきた爽やかな香りが辺りに漂っていた。
私を含めてその場に通り合わせた幾人かが足を止め、
香りに吸い寄せられるかのように
ワークショップが開かれている奥まったスペースへと足先を向けた。
ワークショップのタイトルは、「簡単にできるソープカービング」。
お野菜や果物に彫刻を施すことを
ベジタブルカービングとかフルーツカービングと言うけれど、
それを石鹸でやってみましょう。ということのようだった。
講師の方が作られたソープカービングの作品が展示されていたのだけれど、
とても素敵で息を飲んだ。
可愛らしいパステルカラーの石鹸に
繊細なカットが幾重にも重ねられて作られたお花の数々。
真っ白な石鹸で作られた薔薇の花は高級感に溢れていて
大人の寝室にインテリアとして飾っておきたくなるようなものだった。
そう言えば、小学生の頃の美術の時間に
レンガサイズの石鹸を彫刻刀で掘って作品を作ったのだけれども、
あれは「ソープカービング」だったのか。とそんな記憶が脳内を掠めて過ぎた。
作品の中でひときわ目立っていたのは、
ボックスの中に敷き詰められたソープカービングの花々だ。
生花で作られたフラワーボックスは目にする機会も多いけれど
ソープカービングのフラワーボックスを見るのは初めてだったので、
足を止めて覗き込んでしまった。
石鹸ということで香りも良いし、
アロマやお香などの香りが苦手な方でも楽しめるギフトになる気がした。
このボックスの花々にパールなどをあしらえば、
よりスペシャル感も出るな、なんて思っていると
ワークショップを終えた講師の方に声をかけられた。
袖振り合うも多生の縁だ。
しばし、講師の方との会話を楽しませていただいた。
ここ数年、興味を持たれた女性が増えてきているソープカービングは、
専用ナイフと石鹸さえあれば簡単に始められるのだそう。
また、材料が石鹸ということもあり、
ご自宅に眠っている石鹸で練習できたり、
失敗しても石鹸として使え、
削り取られた石鹸も本来の用途で使用でき、
無駄が出ない点も人気なのだとか。
このようなワクワク感に出会ってしまったら、
居てもたってもいられない。
私は足早に自宅に戻ると工具箱の中をガサゴソとあさった。
長い間眠っていた彫刻刀のセットと美術用の小刀を取り出し
未使用の石鹸を持ち出した。
ネットでソープカービングの基礎のようなものをザッと観て
後はイメージだけで石鹸を掘っていく。
優しい香りに包まれながらの作業はとても楽しくてあっという間に時間が過ぎ去った。
ソープカービングの知名度が上がってきているからなのか、
最近では素敵な彫刻を施した石鹸も以前よりも数多く販売されている。
自分でチャレンジしてみるもよし、
既に完成している素敵な石鹸を実物や画像で愛でるもよし、
お好きな方法で「ソープカービング」の世界を覗いてみませんか?
心の中にパッと可愛らしいお花が咲きますよ。