駅へ向かう道すがら、
日差しが少しだけ丸みを帯びてきたように感じられたのだけれども、
漂う空気はまだ冷たく、
冬の厳しさからはもうしばらく開放してもらえない事を肌で感じた。
一歩一歩アスファルトを踏みしめつつ、
見慣れた景色の中に在る梅の裸木へ目を向けると、
しなやかに伸びた枝が日差しに照らされ、キラリと光った。
梅の木の直ぐそばを横切る時、
潔い程に何も身に着けていないように見えたしなやかな枝に
小さいけれど蕾が点在していることに気付いた。
少しずつだけれど自分のペースで開花へ向けて支度をしているようだった。
そんな梅の木を見て春になったらしてみたいこと、を想像してみた。
あれやこれやと思い浮かんで、
そんなにたくさんの時間は無いんじゃないのかな~と、
自分自身に返してみた。
その中に、ひとつだけここ数年思い越してきている事があった。
乗馬、だ。
毎年、温かくなったらと言っているのだけれど
そう言いながら過ごしているうちに太陽が照り付ける夏になり、
いつの間にか「また春になったら」を繰り返している。
どうして乗馬なのかと言うと、私には心残りがある。
学生の頃、体育の授業で乗馬の時間があった。
初めての経験というものは不安も大きいけれど、
期待や興味もそれなりに膨らむものだ。
私は、磁石の様に両極端な気持ち同士を胸の中でせめぎ合せながら、
乗馬のレクチャーを受けた。
レクチャー後は順番に馬と10分程度の散歩へでかける。
自分の番が近づくにつれ鼓動が早まっているのが分かる。
そして、ついに私の番が来た。
私が背中を借りる馬は艶やかな飴色のボディーに
黒い前髪が凛々しい素敵な馬だった。
一気にテンションが上がったのだけれども指導員に待って、と声をかけられ、
私の後ろに並んでいた生徒を先にその馬に乗せたのだ。
キョトンとする私に、指導員が別の馬を連れてくるからと言う。
それならば、と大人しく待っていた私の前に現れたのは
小さめの馬、ポニーだったのだ。
確かに私の身長はそれ程高くはない、が、低くもない。
腑に落ちない顔の私に、
「このポニーは気性が激しいけれど君となら相性がいいはずだ」というのだ。
背後から友人達の爆笑の声を浴びながら、
指導員のフォローにもならない(と私は思っていた)言葉に納得できるはずもない。
しかし、そのポニーは、どういうわけだか私に擦り寄ってくるではないか。
気を良くした私は、
そのポニーと10分程のお散歩へ出かけたのだけれども
息もぴったりで、その後の乗馬の授業の時の相棒となった。
半ば強引に引き合わされた出会いだったのだけれども、
その時間の印象が強かったからなのか、
それ以降、乗馬をしたいと思わなかったのだ。
それが、数年前にあのポニーの事をふと思い出し、
馬に乗ってみたくなったのだ。
こんな風に何かをやってみたいと感じた時は、
自分の中で新しい扉が開くことがある。
皆さんは春になったら何をしたいですか?
どの扉を開きますか?
私は、色々な言い訳で先延ばしにしてきたけれど、
今年の春こそは、という気持ちで少しずつだけれど春の乗馬体験へ向けて
心の準備を整えよう、あの梅の蕾のように、と思うのです。
皆さんの蕾も少しずつ膨らみますように。