随分と前のことなのだけれど、友人とお酒を飲みながらこのような会話を交わしたことがある。
なかなか旅行へ行く計画は立てられないけれど、ちょっぴり非日常を味わいたい気分だよね、と。
うん、うん、と頷きあった私たちは、叶えられそうな計画から、無謀な計画まで、思いつく限り挙げまくった。
どんどん脱線して膨らんでいく話を軌道修正しつつ、最終的に落ち着いたのが、「『香道体験』をしてみようか」だった。
良さそうな体験プログラムや講師などを探すのは私の役目。
体験予約やスケジュール調整、アクセスナビ等は友人の役目。
彼女とは自然と役割分担できてしまうところが、なんとも心地よい。
お互いに相手の役目を出来ない訳ではないけれど、出来ることならしたくない、そのような我儘部分を無理をすることなくいい塩梅で委ね補い合える。
そんな私たちのことはさておき、このような流れて「香道体験」をする日がきたのです。
香道とは、一定の作法に従って香木を焚いて、その香りを鑑賞して楽しむ日本の伝統芸能、というと大層な響きだけれども、簡単に言うと「貴重な香木から出る、素敵な香りを楽しんで、ついでに香りを当てるゲームなどをしてたりして、香りを楽しみましょう、遊びましょう」というもの。
もともとは貴族の遊びだったのですが、時代と共に伝統芸能と言われるようになりました。
茶道や華道が確立された頃に、香道もできたのだとか。
それにしては、それほど世の中には浸透してないのだな、というのが私の感想。
香道では、香りを「嗅ぐ」という表現は使わず、「聞く」といいます。
香道体験は40分ほどで、簡単なお作法や上記のような事を分かりやすく教えていただいた後に、三つの香炉で焚かれた香木の香りを聞き分ける聞香(もんこう)を楽しみました。
体験前は、色々な香りを嗅いだら(聞いたら)、臭覚が麻痺してしまいそうだな、と想像していたのですが、この香りが、とても繊細で心配無用でした。
※扱う香りが繊細なので香道体験などでは香水や香りの強いものを見につけるのはタブーです。
そのあと、組香(くみこう)という香り当てをします。
貴重な香木を小さく刻んでその一片ずつを香包(こうづつみ)につつみます。
香包の外見はどれも同じなので中身の見分けがつかなくなります。
これが、ひとつずつ香炉で焚かれ、香炉ごと参加者にまわされて、代わる代わる皆で香りを楽しみます。
そして、どの香りだったのか紙に順番を記して、最後に答え合わせをするという遊びです。
これがなかなか難しく、私の結果は、はっきりと当てられた香りは2つ。
もう一つは、当てずっぽうで正解。
残り二つは似すぎていて全く分からない、という結果でした。
臭覚には、わりと自信があった方なのですが、古の人々の繊細さには及びませんでした。
※香木が、どうして貴重だとされているのか、まだまだ興味深いお話もあったのですが、その辺りは、また機会がありましたら……。
香りアイテムを使うことは私の生活の一部、少し前にブームになった言葉を拝借すると私のルーティンなのだけれど、香道に関しては、この時、一度きりの体験なので、決して香道ツウではありません。
それでも、古文の中でしか触れたことのなかった、日本にある「道」のなかのひとつに実際に触れられたことと、
今にも消えそうな、それでいて存在感の在る香りに意識を集中する感覚は、非日常的で素敵な体験だったと思っています。
日本にある香道の世界、聞香、組香というものが在るということ、香りは嗅ぐのではなく「聞く」のだという、ちょっぴり粋な言葉遣い。
今回は私の体験を通して、その辺りに一緒に触れて頂けたのなら幸いです。
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