料理をしている時に包丁を使うよりも、キッチンバサミを使う方が楽で時短にもなる場合がある。
私は、キッチンバサミ愛用者なのだけれど、最近のキッチンバサミは非常に切れ味が良い。
いや、少々怖いくらいに切れ味が良すぎるのだ。
私はある経験を境にキッチンバサミを使う際には、これまで以上に神経を集中させるようになった。
それは2年前の、年が明けて間もない一月上旬、まだお正月の空気が家の中にも外にも漂っていた頃のこと。
私は少し遅い朝食にお餅を焼いて食べようと思いキッチンに立った。
お餅の包みは厚手素材を使った頑丈な真空パックだったので、私は寝ぼけ眼でお手軽なキッチンバサミを取り出すと、パックの上を滑らせるようにしてハサミを入れた。
予定では、こんがりとキツネ色に焼けたお餅にかき醤油を垂らして頬張るところを想像しながら準備を始める幸せのときがくるはずだったのだけれど、私の体は一瞬にして血の気が引いた。
真空パックの上を滑らせるように入れたハサミの勢いが付きすぎて、近くに添えていた親指の上をもハサミがスーッと通り過ぎたのだ。
あっという間の事で痛みは感じず、一瞬何が起こったのか分からなかったけれど、辺りにポタポタと落ち続ける真っ赤な滴と、キッチンマットの上に広がる真っ赤なシミに
何となく状況が把握できた。
冷静にならなくてはと深呼吸を繰り返すも、心臓のバクバクという音に自分が飲み込まれそうになった。
冷静に清潔なタオルを指に巻き、宙を舞った親指の爪の2/3を回収した私は、歩いて10分ほどの場所にある大きな病院へ電話をすると、直ぐに来るようにと返された。
血で赤く染まっていくタオルを見て見ぬふりをしながら病院へ到着すると、緊急対応ということで受付もそこそこにに処置室へ通された。
外科医に事情を説明すると「切り落とした指、持ってきてるよね?どこ?」と言うではないか。
「え?指?」
タオルを外しながら「指、付いてる……ね」と医師。
どうやらワタクシ、軽く動転していたようで「親指の爪の2/3を切り落として血が止まらない」という状況を「親指の2/3を切り落として血が止まらない」と病院側へ伝えたようなのだ。
ここでやっと、看護師たちの手厚い緊急対応に合点がいった。
私は、直ぐに椅子から立ち上がり、恥ずかしさ満点で「ごめんなさい、気が動転して「爪の」を言い忘れました」と頭を下げた。
そして、丁寧に持ってきた爪を差し出した。
処置室へ入ってきた時の私の不安そうな顔と、恥ずかしさで赤く染まっていく顔がおかしかったのか、半笑いで「良かったねー、指付いてて。爪はもうくっ付かないから捨てるよ」と茶化し気味に言う医師と、
「本当に良かったね」と子どもをなだめるかのように背中をさすってくれたベテラン看護師。
ここ数年の私の出来事のなかで5本の指に入る恥ずかしいエピソードのひとつだ。
その後、じっくりと診ていただいたのだけれども、キッチンバサミの切れ味が良かったことと、私のハサミを持っていた角度が良かったことが幸いし、
爪はきれいに切り落とされたけれど、その下の皮膚は表面を軽く切り裂いただけで大事には至っていないとのことだった。
ホッとすると色々な事が見えてくるものだ。
巻いたタオルが取れないようにように留めていたゴムは
紅白の色をして更に紅白のタッセル付のお正月感漂うものだった。
よりによって、こんな物を巻いてきてしまったんだと思っていると、そのゴムを手に取り目の高さの位置で眺めながら、「なに?お正月の何かを食べようと思ったの?」と言う医師に恥ずかしさから理不尽な八つ当たりしそうになる自分をグッと抑えた。
爪のほとんどを切り落としてしまったため、しばらくは3日に一度ほど消毒に通っていたのだけれど、医師が変わる度に、「指を切り落とさなくて良かったね」だの「焦っちゃったんだって?」だの、「紅白のゴム巻いてきたんだって?」だの、「そのキッチンハサミどこのだったの?」だの、何故か全ての情報が共有されており、非常に恥ずかしい思いをした。
いかなる時も冷静に。
自分で思うよりも難しいようだ。
キッチンバサミをお使いの皆さま、どうか取り扱いには十分ご注意あれ。
私の恥ずかしいエピソードに最後までお付き合いくださったあなた、どうもありがとうございます。
本日も素敵な一日になりますように☆彡
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