偶然見つけたカフェの扉をくぐった。
時空の扉をもくぐったかのような洒落た店内に気分が上がる。
紅茶を頼むと自分の電源をオフにして外を窓越しにぼーっと眺めていた。
しばらくして運ばれてきた紅茶に目を奪われた。
それはそれは素敵な花柄と金縁のカップとソーサーは、
一瞬にして私を目覚めさせる。
自宅で飲む紅茶も、カジュアルな使い捨てタンブラーで飲む紅茶も好きだけれど、
このように目でも楽しむことが出来るスタイルも良い。
皆さんは紅茶やコーヒーカップとセットになっている
ソーサーを中身がこぼれてしまった時の受け皿だと思っていませんか?
今はスプーンを置いたり、
お砂糖やミルク、小さなお菓子を添えるために使われていますが
実は違う使い方をされてきたお皿なのです。
18世紀頃のイギリスやフランスでは、
コーヒーや紅茶をわざわざソーサーに注いで
少しずつ飲むスタイルがもてはやされていたようです。
今の私たちから見ると少々衝撃的な映像を想像してしまいますが、
これがソーサー本来の使い方のようです。
諸説あるようなのですが、
コーヒーや紅茶は現在と比べるととても高価な飲み物でした。
そして、今のようにガスなどの設備が整っていない時代ですので、
食事の度に火をおこすような時代でした。
ですから、コーヒーや紅茶を飲むためだけに火を起こすことは
とても贅沢なことで地位の高い人たちにだけの特権だったのだそう。
手間暇かけて淹れたコーヒーや紅茶だからこそ
ソーサーに移して少しずつ大切に味わっていたのかもしれません。
他にもこのような説があります。
コーヒーや紅茶の文化が入ってきた当初は、
ボウルのようなもので飲んでいたのだそう。
しかし、コーヒーや紅茶を楽しんでいた貴族たちが、
もっと優雅に楽しみたいと言いだしました。
ヨーロッパの食器の多くはお皿だったため、
まずは優雅に楽しむためにコーヒーや紅茶をお皿に注いで飲んでいたのですが、
やはりお皿では使い勝手が悪いということで、お皿に把手を付けることになりました。
これが、カップ&ソーサーの始まりだと言われています。
取って付きのカップに注いだコーヒーや紅茶をソーサーに移して飲む習慣は
20世紀の初め頃まで続いたようなのですが、
20世紀中頃になり、カップから直接コーヒーや紅茶飲むスタイルが主流となったようです。
本来のお役目が終わりを告げたソーサーは、
深さを取り除かれカップがしっかりと乗るように緩やかなくぼみが作られ
今の受け皿としての新たなお役目を担うようになったようです。
猫舌な私は、覚ましながら飲むことができる古のスタイルが気になり想像してみたのです。
しかし、かえって粗相をしてしまいそうな気が致しまして、
今のスタイルで紅茶を楽しむことができて良かったと胸を撫で下ろすのでありました。