いつだっただろうか。
実家のキッチンで何かを盛り付けようとカップボードに並んだ器の中から
自分好みのものを選んで取り出した。
いざ盛り付けようとした時、「それ、季節感が違うんじゃない?」と母の声が届いた。
確かに、冬、真っただ中にクリアなガラス製の器は違うのかもしれないけれど、
私は、その器を使いたかったのだ。
そして、その辺りは盛り付けで調整できるじゃないか。
更には、自分で使うのだから放っておいて。
そのような娘目線のあれやこれやが胸の内側に静かに広がった。
日本では茶事に従って夏にはガラス製の器や染付の器を使い、
冬には色の濃い器、陶磁器製のものを使うルールがあります。
茶事(ちゃじ)というのは、千利休がつくりあげた長時間型のお茶会のことです。
このお茶会は、今で言うお食事とティータイムをセットにしたようなもので、
懐石料理に始まり、お酒、濃茶、薄茶という正式な流れでお客様をおもてなしする、
いわば、日本の「おもてなしの原点」のようなものです。
ルールや正式な流れなどと言ってしまうと窮屈な印象を受けますが、
季節感を大切にしながら暮らしを楽しんだり、
お客様をおもてなしするときの心得のようなものでしょう。
日本人の生活のベースにはこのようなものがありますので、
私たちは無意識のうちにガラス製の器には、
夏や冷たいイメージを抱いているように思います。
ただ、最近は高度なガラス技術や新素材などによって
冬が似合うような温かみのあるガラスの器も随分と増えたように思います。
画像出典:yagiasako.tumblr.com
ガラス作家に八木麻子さんという方がいらっしゃるのですが、
彼女は、色や形の異なるガラスの板をパッチワークでもするかのように組み合わせ、
炉の中で加熱してくっつけるフュージングという技術を使って
アート作品のようなプレートを作られます。
そのガラスプレートは、砂糖菓子のように優しくてふんわりとしているのだけれど、
ちょっぴりスモーキーなニュアンスカラーの物が多く、
オトナが欲する可愛いが詰まっています。
画像出典:yagiasako.tumblr.com
見る楽しみ、探す楽しみ、手にする楽しみ、
使う楽しみ、コーディネートする楽しみ、飾る楽しみ。
冬のガラスも楽しみ方は様々です。
ガラス製の器が好きなのだけれども冬は楽しめなくて……。
そう思っていた方は、
冬の景色が似合うあなた好みのガラス製の器探しをしてみてはいかがでしょうか。
関連リンク:※ガラス作家・八木麻子さんの作品は個展やイベントなどでも観ることができます。