友人との待ち合わせの時間までカフェで過ごそうと、店内からでも待ち合わせ場所を確認することができるカフェへ入った。
店内は外の冷たい空気とは打って変わって温かく、コーヒーと甘いスイーツの香りは、冷たさで強張っていた体をゆるゆるに解していく。
窓際の席を選んで腰かけると細身の背の高い店員がお水とメニューを運んできてくれた。
メニューを開くことなく紅茶をオーダーし窓の外へと目を向けた。
街ゆく人々の装いと青白い空から冬の訪れを感じた。
運ばれてきたティーカップを口元まで運びかけた手をそっと戻した。
いつも自分が猫舌であることを忘れて口の中をやけどさせてしまうのだけれども、この日は成功。
頃合いを見て紅茶をひと口。
思っていた以上に冷えていた私の体の中を、そのひと口の紅茶が道筋を記しながら流れ落ちていった。
ひと息ついたところで鞄からスマートフォンと携帯していた本を取り出した。
さて、今の気分はどっち?そう自分に問う前に伸びた手が掴んのは本の方だった。
パラパラと適当な場所を開いて読み始める。
すると、本の内容に集中しかけたその時、「相席いいですか?」の声。
他の席も空いていたはずだけれどもと思いながら顔を上げると笑顔で友人が立っていた。
友人も早く到着し、お茶でもしようと店内に入ったところ私の姿を見つけたのだとか。
この友人のチャームポイントは天真爛漫さ。
時々、その天真爛漫さ具合にドキリとさせられることもあるのだけれど、それもまた面白い時間でもあるし、その時の自分の反応から思わぬ自分を発見することもあり興味深い。
この日は、私が敢えて人目に触れぬようブックカバーをかけて読んでいた本を身を乗り出すようにして覗き込んできた。
「今日は何を読んでるの?見せて」
「いやいやいや……、誰にでもそれは言わない方がいいと思うよ。見せられないような本を読んでいたらどうするの?」
「見せられない本って、どんな本?」
この純粋さを瞬時に解き放てる彼女を見ていると笑みがこぼれる。
彼女の問いかけには応えぬまま「苗字の由来と家紋の関係を探る本」と言いながら
読みかけの本を手渡した。
パラパラと捲り無言のまま返された本を鞄にしまおうとした時、彼女が言った。
「長谷川さんって、どうしてハセガワって読むの?川がガワになるのは何となく分かるけれど、その本はそういう事は書かれていないの?」と。
動物的勘というものだろうか。
彼女を待っている間に読んていたのは長谷川姓の歴史の部分だった。
インプットしたての、知識として私に定着するかどうかも分からない、知りたてホヤホヤの情報をアウトプットする場が、こんなにも早く訪れるとは。
ただ、注意しなくてはいけないのは姓のルーツはひとつだけではないということ。
同じ姓を名乗っていても、先祖代々住んできた土地によってもルーツは異なるのだ。
こちらに足を運んで下さっている方の中にも長谷川さんがいらっしゃるかもしれませんし、周りに長谷川さんが居る、という方もいらっしゃるかもしれませんので、今回は長谷川姓のルーツのひとつを、簡単にご紹介してみたいと思います。
長谷川姓のもとは、奈良県の初瀬町にある「初瀬川」だと言われているようです。
この川は文字のまま「はつせがわ」と呼ばれたいたのですが、いつの間にか「つ」を発音しなくなり「はせがわ」と呼ばれるようになったのだそう。
同時に、初瀬川周辺の地形は長い谷のようでもあったため、少々紛らわしいのですが、初瀬川のことを「長谷川(ながたにがわ)」と呼ぶこともあったのだとか。
時を経る中で「はせがわ」という響きと、地形から生まれた「長谷川」という文字が残り、
この地に住んでいた氏族(しぞく・うじぞく)が長谷川(はせがわ)と名乗り始めたことが
長谷川姓の始まりです。
氏族(しぞく・うじぞく)と言うのは、共通の祖先を持った血縁関係にある方々のこと。
家紋なども合わせて見ていくと、自分の姓のルーツをもう少し詳しく知ることができたりも致します。
世の中、何に自分を磨いてもらえるのか分からないものだ。
その日の私は、彼女の天真爛漫さに色々と気づかせてもらいながら、楽しいひと時を過ごすした。
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