壁掛け時計は、そう頻繁に購入リストに挙がってくるものではないため、
インテリア雑貨のコーナーへ行っても素通りすることが多い。
ただ、その日は壁掛け時計が並んでいるそばに、
たくさんのスノードームが置かれていたこともあり、
「これだ!と思えるスノードーム探し」のついでに壁掛け時計も覗いていたのです。
すると突然、「ぽっぽー」と、
右斜め頭上にかけられていたハト時計のハトが鳴きはじめました。
ハト時計を見たのも、ハト時計の鳴き声を間近で聞いたのも久しぶりでしたので、
驚きも重なり小さな扉から顔をしては引っ込む、を繰り返すハトに視線を奪われました。
そんな私の姿がハト時計の購入を考えているお客さんにでも見えたのだろうか。
ベテラン風の定員が声をかけてきました。
この日の私の目的はこれだ!と思えるスノードーム探し。
ハト時計を買う予定も買うつもりもありません。
だけれども、その定員の語り口調が、まるでハト時計の昔話を読み聞かせるかのようだったので、
つい、足を止めて聞き入ってしまったのです。
今回は、その時に伺ったお話を少し。
ハト時計はうるさいと感じる方も増えてしまったようで人気は下火続きだったのだそう。
ただ、ここ最近は、子どもやお孫さんへの贈り物として購入する方々が増えてきており、
以前よりも品数も種類も豊富になってきるようなのです。
その言葉を受けて、改めて辺りを見渡してみると、
昔ながらのハト時計から、パッと見ただけではそれがハト時計だとは分からないようなスタイリッシュなものまで
確かにハト時計の種類が以前よりも多く、存在感を放っているように感じられました。
贈り物に選ばれる理由としては、直ぐに遊び飽きて放置されてしまうおもちゃよりも、
大切に長く使うことができる点や、時間を読むことが出来るようになる点、
日々を共に過ごすことで思い出が重ねられていく点などが挙げられ、
贈り物としての魅力が見直され始めているようでした。
お話に耳を傾けていると、ハト時計はどうしてハトなのだと思いますか?と
まさかの質問が投げかけられました。
考えることを早々に放棄して「どうしてでしょう?」と返す私に、
店員は穏やかな口調で続けました。
日本ではハト時計として知られているけれど、
もともとはドイツの南部に生息しているカッコウをモデルにして作られた時計なのだそう。
そう言えば、ハト時計は英語ではククークロック(カッコウ時計)と呼ばれております。
カッコウはヨーロッパでは素敵な鳴き声と共に幸運をもたらす鳥と言われており、
春告鳥とも言われているので、
時を告げるイメージにも合うということでドイツで時計のモチーフとして使われ始めたのだとか。
ただ、日本に輸入されると輸入業者の方がハトに見間違え、ハトとして紹介してしまったり、
カッコウは閑古鳥に通じるため縁起が悪いと言われたり、
様々な理由から日本では平和の象徴でもある「ハト」が出てくる時計、
ハト時計として根付いているのだそうです。
お国が変われば感じ方が変わってしまうモチーフもあるようですね。
このようなお話をひと通り聴かせていただき、
購入の予定がないことをお詫びすると、
素敵な笑顔で「ハトが出てくる時間にハト時計を眺める機会がありましたら、
ささやかな幸せを受け取ってくださいね。」と仰ってくださいました。
ハト時計、自宅に置くかと尋ねられれば、
今は「はい、置きます」とは答えられないけれど、
温かみのある時計だと思いながらその場を後にしました。
この日、偶然にも出てきたハトから私が受け取ったささやかな幸せは、
この店員さんとの時間とハト時計の世界を覗くことが出来たこと。
皆さんも、ハト時計の鳴き声を耳にする機会がありましたら
ささやかな幸せをハトから受け取ってみてくださいませ。