冬の夜空は空気がピンッと張っていて、星の輝きも他の季節の時と比べると数割増しのように感じられる。
時間を持て余していた学生時代、ある友人から星を観に行かないかと誘われた。
天体は大好きだけれども空を見上げて探し出せる星座は、右手で足りるほどの知識しかなかった。
それでも星が好きという理由だけで誘いに乗った。
友人は天文同好会なるものに在籍していることもあって、いつも私の素朴な疑問に答えてくれていた。
私の興味は星座を覚えるという方面には向かわなかったけれど、
友人は自分の知識を押し付けることも共有を強いることもなく
私の少し変わった楽しみ方を面白いと言って笑いながら聞いてくれていた。
四六時中連絡を取り合ったり行動を共にする間柄ではなかったのだけれども、
「同じものを好き」というところのみで繋がっていた友人。
友人の寛大さを今になって、とても温かかったなと思うし、
精神的にとても大人だったのだと遅ればせながら気が付いた。
その日は、初めて顔を合わせる友人以外の天文同好会メンバーに混じって毛布に包まりながら冬の夜空見上げた。
両手で握りしめているキャンプ用のマグカップからは湯気が立ち上っていた。
普段から見慣れている星座が散りばめられた日常の空なのだけれども、
そこで見る空は非日常を含んでいて、日常と非日常が混在しているような空に感じた。
ググッと今にも迫ってきそうな星々をただただキレイだと思いながら見上げていると、
「だるま…」「だる……」「だ……」「だるまさ……」と周りから妙な呪文のようなものが聞こえた。
今だから、皆さんにだから言えるのだけれども、
その時の私は一瞬、ほんの一瞬だけ、
妙な宗教の勧誘の場に来てしまったのではないだろうかと焦ったことを今でもよく覚えている。
寒さではない何かにフリーズしている私に気付いた友人が、その呪文の正体を教えてくれた。
流星はあっという間に流れきってしまうから何秒輝いていたのか観測したくても難しい。
そこで、天体観測をしている人たち(アマチュア)は、
「だるまさんがころんだ」を1秒で言えるように猛練習をするのだそう。
そして流星を見つけると「だるまさんがころんだ」を口にして、
「だるま」で終われば0.3秒、「だるまさんがころ」まで言えれば0.8秒という具合に
流星が輝いている時間をストップウォッチなどを使わずに計っているのだと。
その説明を聞いている間も時折、だるま~の呪文が両サイドから私の耳に届き、
「だるまさんがころんだ」という言葉の使い道は鬼ごっこの時だけではないのか、
と驚きと共に妙に感心した。
私も時々目にすることができた流星に向かって「だるま~」を呟いてみたけれど、
周りの人たちとのテンポのズレにハッとし、
彼らは本気でこの呪文(に聞こえてしまう言葉)を練習したのだと、もうひとつの驚きを味わった。
私は途中から呪文に飽きてしまい、
だるま~よりお願い事を言える方がいいな~と暢気なことを言っていたのだけれど、
そんな私の呟きにも「その方がワクワクするもんね」と返してくれていたあの友人。
やはり、とても大人びていたのだと改めて。
もう連絡はとっていないけれど、どこかで冬の空を見上げているのだろうか。
久しぶりにじっくりと夜空を見上げつつ、元気で過ごしていてくれたらいいなと思う夜。
皆さんは流星を見つけたら呪文にチャレンジかしら?
それともやはりお願いごとかしら?
たまには、冬の夜空で遊んでみてくださいませ。
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