寒い。
横断歩道で信号待ちをしていると重みのある冷たい風が顔を撫で上げるように吹いた。
少しでも温かさを感じたくてグルグル巻きにしていたストールに顎を沈ませる。
信号の青に背中のスイッチを押された人々が一斉に渡り始めた。
少し出遅れたけれど、私も縮こまりきってしまいそうな足をグイッと前へ出した。
待ち合わせの場所へ向かいながら視界に飛び込んでくるショーウィンドウを目で追った。
ガラス越しのそこは、ひと足先に春。
春色に染められたディスプレイが寒さで丸まった私の背中を伸ばしてくれた。
まだまだ寒いけれど季節は着々と春へ向かい始めているのだと感じられる瞬間だった。
ウィンドウディスプレイにチューリップ使っているところが多かったのだけれども、
チューリップほど多くのエピソードを持っている花は珍しいのではないかしらと思うのです。
いつもなら、伝説や神話などのお話をさせていただくところなのですが、
今回は全く異なる視点からチューリップが持っているエピソードを
お話させていただければと思います。
※チューリップが持っている甘いエピソードはまた機会がありましたら……。
チューリップはオランダのお花だと思っている方が多いようなのですが、
もとは中央アジアから地中海辺りの地域で誕生したお花です。
これが16世紀に入りトルコからヨーロッパへと渡り、
多くの人々が、この愛らしいチューリップに魅了されました。
ここまでであれば、誰もが予想できる流れだと思うのですが、
この後、後に「チューリップ狂時代」と呼ばれる時代がオランダに訪れます。
どのような時代だったのかといいますと、
チューリップに魅せられた人たちがチューリップでお金儲けをするようになったのです。
チューリップは咲き続けるうちに花の形や配色が変わったり、
模様が変化しやすく、「新種」と呼べるものが生まれやすい植物でした。
次々に見たことのないチューリップが登場するため、
チューリップに魅せられた人々が新種に多額のお金を支払うようになります。
しかし、次第にチューリップの商売で破産する人、
新種のチューリップにお金をつぎ込んで破産する人なども出てきたため
当時のオランダ政府がチューリップの取引を規制するなどして取り締まったのだとか。
これがオランダのチューリップ狂時代です。
政府が取り締まるほどのことです。
目的は異なったのでしょうけれど、
多くの人がチューリップに魅了されたことが分かるエピソードではないでしょうか。
そして、元はトルコからオランダへ渡ったチューリップですが、
今で言う逆輸入というスタイルでトルコでの人気にも火が付きます。
皆さんは「トルコタイル」をご存知でしょうか?
このようなタイルです。
鮮やかな色合いと細やかで複雑なデザインが魅力的な
トルコの伝統が詰まったタイルです。
このタイルを見ているとチューリップがデザインされたタイルを目にする機会があると思います。
チューリップは芸術家たちをも魅了したようで、芸術作品のモチーフとなったようです。
このような時の流れを間接的にはありますが、
私たちもトルコタイルの中で無意識に触れています。
もし、トルコタイルを目にする機会がありましたらチューリップ探しをしてみて下さいませ。
見慣れているとは言え、
愛らしいチューリップを見ると春を感じて気分があがりますよね。
チューリップ狂時代はもう訪れないのでしょうけれど、
あの時代の人々が魅せられた気持ちは、ほんの少し分かるような気がいたします。
チューリップの花言葉も伝説もフラワーセラピーも楽しいけれど、
たまには、このような視点で覗くお花の世界、いかがでしょうか。
※フラワーセラピー視点からチューリップを覗いてみたい方は下記からどうぞ。
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