ある日、友人に妙なお願いごとを言い渡されたのです。
そのお願いごととは、「今度、私の父に甘い卵焼きを作ってあげて」というもの。
友人が家族でお寿司屋へ行ったとき、
そこで出された卵焼きが甘く、友人家族はひと口食べた後、手を付けられなかったのだとか。
しかし、横を見ると父親だけが美味しそうに食べており、
もしかして甘い方が好きなの?と問うと「うん」と可愛らしく頷いたのだというのです。
友人宅の卵焼きはお出汁が効いた塩気のある卵焼きだったそうなのですが、
お父様は、「奥さんがせっかく作ってくれた卵焼きだから」という理由で
結婚当初から何十年もの間、甘い卵焼きの方が好きだと言わないままいたのだそう。
友人に「愛だね」と返すと、
お母さんの卵焼きも美味しいから不満はないと言いながらも、
家族が残した甘い卵焼きまで美味しそうに食べる父親を見て、
家庭で食べる甘い卵焼きを食べさせたくなったのだというのです。
私の実家は「甘い卵焼きも、塩気のある卵焼きも、出汁巻き卵も美味しいわよね」という家だったため、
卵焼きを作るときには、今日はどの卵焼きを食べたいか、家族で多数決をとっておりました。
時々、今日は甘い気分じゃないのに甘い方か、などと肩を落とす日もあったのですが
どの卵焼きにも抵抗を持たないまま大人になりました。
良く言えば柔軟性があるとも言えるのですが、
地域性や自分の故郷の味というものに少しだけ疎いことは否めません。
一般的に関東の卵焼きは、お砂糖を入れた甘みのあるもの、
関西の卵焼きは、お塩やお醤油、お出汁などを効かせた塩気のあるものと言われておりますが、
皆さんのお宅で召し上がるシンプルな卵焼きはどのような卵焼きでしょうか?
また、お好きなお味はどちらのタイプでしょうか?
日本の食文化は思っている以上に地域によって異なることが多いものです。
見比べてみると歴史なども感じられて興味深いものではあるのですが、
ひとり暮らしや、就職、結婚、転勤などを通して
初めて慣れ親しんだ場所から離れてみて始めて気が付くものもあります。
時節柄、引越を控えている方もいらっしゃるかもしれませんね。
故郷の味を大切にしつつ、新しい味もどうぞ楽しんでみて下さいませ。
私はと言えば、友人と友人のお父様との約束は未だ果たせていないのですが、
一緒に我が家で飲む際にはご所望の甘い卵焼きを
おもてなしの一品としてお出ししたいと思っているところでございます。
今夜の一品に「卵焼き」いかがでしょうか。