書類を準備し封をした。
あとは切手を貼って歩いて1分足らずの所にある
年季の入った、オレンジ色混じりの赤いポストに投函するだけ。
ひと仕事終えた時のような安堵感を感じながら、
切手を収納している引き出しを鼻歌交じりに開けた。
「えぇ~」と静かな部屋に自分の声が広がった。
たっぷりと買い置きしてあったはずの切手がいつの間にか底をついていた。
無いものは仕方がない。荷物をまとめて近所にある郵便局へと向かった。
郵便局内で諸々を済ませ、出口へ向かい自動ドアが開くと同時に外へ出た。
すると、通りすがりの少年たちに「ひらけ、ゴマ」と指を指されていた。
私があまりにもタイミングよく開いた自動ドアから飛び出したのだろう。
少年たちがケラケラ、クスクスと笑っている。
「(うわっ、呪文をかけられた)」「(タイミングよく飛び出してしまった)」と思うことが精いっぱいで、
笑う彼らに粋な返しのひとつも出来ない自分に気抜けしながらも、
何とか大人の微笑みを返し、その場を後にした。
そう言えば、先日アラビアンナイトのお話をさせていただいたところだけれども、
きっと、少年たちは「アリババと40人の盗賊」を読んだばかりなのだろうと勝手に推測した。
私の少し先を歩く彼らは、未だ飽きない様子で目に入るもの全てを指さして
「ひらけ、ゴマ」と連呼し楽しそうに笑っていた。
そもそも、どうして「ひらけ、ゴマ」という呪文なのか。
これは原文の呪文が「オープン(開け)セサミ(ゴマ)」で、
この呪文を日本語に直訳しているから。
英語版の「アリババと40人の盗賊」を必要に迫られて読んだことがあるけれど、
突然現れた「ゴマ」という言葉が妙に不自然で、「何故にゴマ?」と疑問を抱いたことがある。
調べる中で、たくさんの説が残されていることが分かったのだけれども、
私の記憶に残っているものは、このようなお話。
「アリババと40人の盗賊」が収められている『千夜一夜物語/アラビアンナイト』は、
アラビア文学の古典なのだけれど、
当時のアラビアでは既に「ゴマは体に良いもの」という認識があったといいます。
食品としても優れている上に、スキンケアやボディーケアにも使われておりましたし、
香ばしい香りに魅了される方も多く、
ゴマには魔力があるというような表現をされることもあったのだとか。
このような認識がベースにあったからこそ生まれた「ひらけ、ゴマ」という呪文。
呪文を発した者の力と言うよりは、
魔力を持っている「ゴマ」に、「この扉を開けてくれ」とお願いしている
という解釈もできるのだそう。
このような当時の人々の認識を知れば、
「ひらけ、ゴマ」の呪文も、それほど調子はずれなものではないような気がする。
それにしても、
呪文ひとつであれほどまでに盛り上がることができる子どもの感受性はキラッキラしている。
私も、粋な返しのひとつくらい所持しておこうかとも思ったのだけれど、
その時点で、何かが少し違う。などと思いながら夕暮れ時の道を歩いた。
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