今年の春、スマートフォンを覗き込みつつ目的地を目指していたのだけれど、
道すがら妙な光景を目にした。
あるお宅のガレージの軒下に「スズメが子育てをしています。温かい目で見守って下さい」
と書かれた張り紙があった。
しかし、私には、どこからどう見ても、その巣はツバメのそれのように見えた。
ほんの少しだけ立ち止まって巣を見上げると、巣の中からひょっこり小さな鳥が顔を出した。
それは、確かにスズメだったのだ。
不思議なこともあるものだと思いながらその場を後にし、
そのような出来事があった事すら忘れていた。
それからしばらく経ったある日、偶然手に取って流し読みをしていた新聞の中に、
鳥たちの住宅事情に関する記事が載っていた。
何でも、ここ十年くらいの間にツバメの巣をスズメたちが乗っ取り、
子育てをするようになっているのだとか。
もしかして、私があの時目にした妙な光景は、これだったのかしら?と私はその記事に惹きつけられた。
どうして、このようなことが起こっているのかと言うと、
本来、スズメたちは軒下にできた隙間の中に枯草などを詰め込み、巣としてきたのだそう。
しかし、私たち人の住宅環境の変化に伴って瓦屋根の家が減り、
軒下や隙間がなくなった結果、スズメたちの住宅地が激減している現状があるようだ。
そこでスズメたちが目をつけたのが、空き家になっているツバメのお家。
ツバメは渡り鳥で帰巣本能が強い鳥。
春になれば我が家に戻り子育てを、
我が家が無くなっていれば再度新しい我が家を作り子育てを始める。
ただ、彼らが帰ってくるタイミングは様々な自然の事情により
前年よりも早かったり、遅かったりとまちまち。
そうすると、同じく春先に子育てをするスズメたちがひと足先に家探しを始め、
ツバメの空き家に枯草を持ち込んでリノベーションし、
我が家として使い始める例が多くなっているのだそう。
ツバメたちは、我が家がいつの間にか人手に渡っているとはつゆ知らず、
長旅を終えて我が家に戻ったところでスズメ一家と鉢合わせしてしまい、
スズメとの縄張り争いに負け、一から新しい場所を探し、巣作りを行っているという。
どちらが悪いということではないのだけれど、少々胸が痛む現実だ。
良い場所は取り合いになるものなのね、と思ったのだけれども、
スズメとツバメが欲する住宅環境は異なっているのだという。
スズメに適した住環境というのは、
雛鳥が巣立つとき、身を隠すことができる木々がすぐそばに、あることなのだとか。
一方、ツバメに適した住環境というのは、
雛鳥が巣立つために飛ぶ練習ができるだけの空間が巣の前にあることだという。
スズメたちは、この様に適した環境が異なるにも関わらず、
乗っ取りに近い形でツバメの巣を我が家にしているわけだから、
私たちが想像する以上に切羽詰まっているのかもしれない。
そして、更に、スズメたちがツバメの巣で子育てをし、雛が巣立つとき、
身を隠す場所が近くに無いことが多いため、カラスなどに食べられてしまうことも多いのだそう。
私たち人間の住環境も日々変化しているけれど、
野鳥たちの住環境も時代と共に変化しているようだ。
子育てや家探しが大変なのはどこも同じ、ということなのかもしれない。
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