気分転換にキッチンの大掃除を始めた。
黙々とシンクを磨き上げていると頭の中が自然と空っぽになって気持ちが良い。
しかし、この日はシンクを磨き上げたい気分ではなく、
キッチンに眠る不要なものを潔く断捨離する日にした。
私の選別の基準は、今の自分がそれを好きか、嫌いか。
今の自分が使いたいか、使いたくないか、だ。
少々使い勝手が悪いものや古いものでも、好きであれば使い続けるし、手も伸びる。
だけれども、それ以外は自分で笑ってしまうくらい手が伸びない。
そのことに気付いたのは、十分すぎるくらい大人になってからだったけれど、
自分の基準が軸としてあれば、そう迷わないものなのかもしれない、と思ったりもする。
誰かの軸を借りてコツを掴むのはいいけれど、
きっと本題は、それを自分軸にするにはどうしたら……、ということだろうか。
そのような事を頭の隅にちらつかせながら、
使わなくなった食器類や調理器具などを袋に押し込んだ。
すると、普段は目が届かない場所に何やら可愛らしい箱を発見した。
存在すら忘れていたそれは、家電製品か何かを購入したときに
お店の方が付けてくださったミニサイズのスープジャーだった。
お弁当とは無縁の我が家ゆえ、長い間、放置してしまったのだけれども、
そのことが分かるくらいに色褪せた箱が妙な切なさを運んできた。
この手の商品に疎い私は液体状のメニューを入れる以外の使い道が思いつかず、
箱から取り出したスープジャーを握りしめた。
試しにスープジャーの使い道を調べてみるか、とスマートフォンを覗き込んで驚いた。
スープジャーがあれば、ちょっとしたお鍋メニューや中華丼のあん、
麻婆豆腐にリゾットと何でもお弁当にできるのだ。
そう言われてみればそうか、80度前後の温度を3時間ほど保つことができれば、
ご飯やお赤飯、炊き込みご飯にパエリヤなども作れてしまう。
そう思ってレシピを検索すると出てくる、出てくるスープジャーレシピ。
私にお弁当は必要ないのだけれど、
こんなにもワクワクした気持ちになれるのなら、
一度くらい、このスープジャーなるものを使ってみようという気分になった。
このスープジャーは、数年前の私にとっては、
使いたいと思えるものではなかったようなのだけれども、
今の私にとっては、使ってみたいと思えるアイテムに変身していた。
人との出会いにもタイミングがあるけれど、
物との出会いにも「ここぞ」というタイミングがあるようだ。