幸せのレシピ集

cawaiiとみんなでつくる幸せのレシピ集。皆様の毎日に幸せや歓びや感動が溢れますように。

押したいボタンと押してしまったボタンの結末。

f:id:hiiragi1111:20170929134230j:plain

「かっちゃん、それ触っちゃダメ」若いお母さんが慌てたように言い放った。

その声につられるようにして、その声の先を見てしまったのだけれども、

小さな男の子がつま先立ちで、

自分の背丈よりも高い場所を目指すようにして、右腕をぎゅーっと伸ばしていた。

伸ばされた手は、人差し指だけがピンッと伸ばされていて、

指の先には火災報知器のボタンがあった。

押したらどうなるかなんてことには一切興味がなくて、

ただただ、ボタンをギュイッと押したい衝動のまま突き進めるお年頃。

少しだけ、羨ましくもある。

そのような事を思いながら、友人を待つ傍ら、少しだけ親子を眺めていた。

どうして、そのボタンを押してはいけないのか。

お母さんが丁寧に説明しているのだけれど、

私の目には、少年が次のチャンスを伺っているように見えた。

f:id:hiiragi1111:20170929134135j:plain

そう言えば、ショッピングモールか、デパートか、はたまた駅の構内だっただろうか。

場所は忘れてしまったのだけれども、ある時、母が化粧室に入った。

外で待っていると化粧室の中から警報音が鳴り響き、

女性たちが外へ小走りにでてきたのだ。

その緊張感のある音に私の心臓がぎゅっと強張った。

外へ出てくる女性たちの中に母の姿を確認し、

何があったのか尋ねたけれど急に警報音が鳴りだしたため、慌てて出てきたという。

女性たちと入れ替わるようにして警備員たちが数名、化粧室内に駆け込んでいく様子を確認し、

状況を気にしつつも私たちは、その場を離れた。

 

喫茶店に入り、落ち着いたところで話題はもちろん警報音のことだ。

ひと通り、想像出来得ることを話し終えたあと、母が言ったのだ。

「トイレの横に妙なボタンがあったから押したけれど、それは、水のボタンじゃなかったの。

あれって、なんのボタンだったと思う?」と。

何だか嫌な予感がした。

「水のボタンじゃないボタンを押したらどうなった?」と尋ねると、

「警報音が鳴りだしたから、間違えて押したボタンの確認どころではなかったのよ」

と答えながらコーヒーを口に運び、

「このコーヒー美味しいわね」と嬉しそうに言う母を眺め、

あの警報音を鳴らしたのは間違いなく母だと私は確信した。

「母上、美味しいコーヒーをお召し上がりのところ、大変残念なお知らせなのですが……、

さっきの警報音は、その水のボタンじゃないボタンを押したせいだと思うんだけど。」

「え?私なの?どうしよう。」

そう言いながら、目の前であたふたする母を眺めたことがあったな、

と懐かしいことを思い出したりもして。

ボタンは、人を誘うのがお上手です。

そのボタン、押す前に一度ご確認を。

画像出典:https://jp.pinterest.com/