高い所や揺れる所が苦手なこともあり、普段は歩道橋を使うことはないのだけれど、
その日は、歩道橋を使ってあちら側へ行ってみようかなと、気まぐれ心が表れた。
階段を上がりきり橋を渡っていると、走る車の振動がジンジンと足の裏から伝わってきて、
やっぱり、しばらく歩道橋はいいや……と思った。
妙な緊張感から解放されたくて早足で渡りきり、
カランカランと鳴ってしまう靴音を、できる限り抑えながら階段を下りた。
数段降りたところで手すり部分に貼られているシールに気が付いた。
子どもが貼ったのだろう。
降りながら確認すると、可愛らしいラッコのシールが下の方へと続いていた。
ラッコと言えば、お腹の上に石を置き、
その石に貝を叩きつけて殻を割り中身を食べる様子が可愛らしい哺乳類だけれども、
脇腹ポケットに様々なものを忍ばせていることをご存知だろうか。
脇腹ポケットと言っても、
ラッコは、カンガルーのような袋を持った有袋類(ゆうたいるい)ではないため、正確にはポケットではない。
ラッコの脇腹は皮膚がたるんでいて、二段腹、三段腹のようなイメージで
脇腹辺りにポケットにも見えるようなヒダを作ることができる状態なのだ。
そして、そのヒダの間に、食べ切ることができなかった貝類や海で遊ぶ際に使うオモチャ、
ラッコが生きていくための必須アイテムである石などを挟み込むようにしてしまっているのです。
人間以外の哺乳類で唯一、道具を使って食事をする生物がラッコだけれども、
彼らは、その道具である石へのこだわりが強いといいます。
そこら辺に転がっている石を使っているのではなく、
しっかりと選び抜いた自分だけの石を持っており、
お気に入りの石を見つけたら同じ石を大切に使うのだそう。
しかし、お気に入りの石が割れるなどして使えなくなることもあるわけで、
その時の為に、陸地の自分だけの秘密の場所にスペアの石をストックしていることもあるといいます。
もういつの事だったが忘れてしまったけれど、水族館で観たラッコショーでこのような話を聞き、
ラッコの賢さと自分のオモチャを携帯している可愛らしさに驚いたことがあった。
久しぶりに思い出したラッコの生体。
たまには歩道橋を渡ってみるのも良いのかも、と思いかけたけれど
やはり、しばらく歩道橋はいいやと思い直して先を急いだ。
ラッコに触れる機会がありましたら、ほんの少し彼らに思いを馳せていただけましたら幸いです。