生憎のお天気だったけれど出かけることにした。
傘を直ぐ何処かに置き忘れ無くしててしまうことが多い私は、
お気に入りを無くしてしまったときのショックを幾度となく経験したこともあり、
今では潔くビニール傘を愛用している。
しかし、お気に入りの傘をシュパッと開くときのあの感じ、
やはりあれは、雨の日のちょっとした楽しみだと思う。
雨の日の外出時は時々、そのようなことを思いながら玄関の傘立てから、いつもの透明ビニール傘を引っ張り出す。
これはこれで、軽くて、それなりに丈夫で、視界もクリアで、お財布にも優しくて悪くない。
まぁ、それが簡単に無くしてもいい理由にはならないのだけれど。
今の私を雨から守ってくれる相棒は、これ。
今日の道中も御頼み申します、そのような気持ちで傘の手元をギュッと握りしめ玄関を出た。
傘に落ちる雨粒の音をBGMに歩いていると、私の少し先を歩く可愛らしい親子が目に留まった。
ぬいぐるみ素材でできたミニオンのリュックを背負った小さな男の子と、その母親だ。
男の子が弾むように歩くと背中のミニオンもご機嫌に見えた。
男の子の傘は安全対策も万全といった風の黄色地に、
これまたミニオンズ大集合という賑やかさ。
隣の母親の傘はというと、曇り空が華やぐような、きれいな若草色をしていた。
あ……、このお母さんは傘を無くさないんだな。
そのような視点が先に立つ自分に気付いて、
傘を無くしてしまうことに、ちょっとしたコンプレックスを感じている自分にはたと気づいた。
まぁ、まぁ、いいじゃないか。と自分を慰めていると、
そのお母さんの手が男の傘の先、石つき部分を
まるで急須の蓋を摘まみ上げるかのような優しい手つきで摘まんでいた。
通行人とすれ違う時、傘や男の子が当たらないように、
お母さんがさりげなく方向転換させているようにも見えた。
気付かぬまま前を見て歩く男の子を優しい表情で眺めるお母さんの横顔と、
その光景に思わず頬が緩んでしまった。
自分の力だけで歩いているように見えるようなときも、
自分が気付いていないところで、
誰かの力や思いやりを受けて歩いているのだろう。
冷たい雨が降っていたけれど、偶然目にした光景が温かくて、
その冷たさが妙に心地よく感じられたある日のできごと。