先延ばしにしていた、年に一度の健康診断を受けに行った。
ここ数年は、込み合う時間帯を避けていることもあり、
その日に受診する方々の中で一番最後ということが多い。
検査をして下さる皆さんが「この人で最後だ」、そう思っているのかは分からないけれど、
最後の力を振り絞って下さっていることは、何となく伝わってくるように思う。
簡単にできる職業などない。
そして、生きるって、大変で、楽しくて、おもちゃ箱ようだ。
フロアに響く自分の足音を聞きながら、
健康診断と言う名のスタンプラリーの完全制覇を目指し、次の部屋へと入った。
何度経験しても緊張感がゼロになることがない採血。
できるだけ平常心を保ちつつ、そう見えるように振る舞っていたつもりなのだけれど、
採血は苦手ですか?と尋ねられ、私に女優は無理だ、そう思いながら「苦手です」と答えた。
思っていたよりも小さな声での返事に、やれやれ……と思いつつ。
すると、ベテラン看護師が私の気を紛らわせようと気遣ってくださったのか、
話をしながら手際よく採血の準備を始めた。
彼女の話はこのようなものだった。
採血や点滴が苦手だという方の中には、
「血管に空気が入ったらどうしよう」と怖がっている方が意外と多いのだとか。
私自身は、採血でそのようなことを思ったことはなかったのだけれども、
点滴を受けるときに、そのようなことが脳裏を過ったことはあったように思う。
きっと、小説やドラマなどに登場する犯人が、
注射器で空気を血管に送りこみ殺害するシーンが記憶のどこかに残っていたからだろう。
先に結論を言えば、血管の中に空気を注入すれば死に至ることもあるけれど、
少量であれば問題はないのだそう。
それを聞いた私は、少量とはどれくらい?という気持ちからか、
安心と不安が半々で混ざり合うような気がした。
話を詳しく聴く間もないほどの手際の良さで私の採血はあっという間に終わってしまった。
自宅に戻り、気になっていた「少量」について調べてみると、
採血や点滴、注射などのほとんどは静脈で行われており、
死に至る空気の量は150mlほどなのだそう。
点滴を受けていると、チューブ内に空気を見つけてしまったり、
点滴が終わる直前に空気の塊が、
針の近くへと降りていくのを見つけてハラハラすることもあるけれど、
点滴に使われているチューブ丸ごと空気だったとしても、その空気量は10mlもないという。
更に、採血などを行う注射器も10mlほどなのだとか。
このようなことを知ると、体内に致死量となり空気を送りこむことは、
そう簡単にできることではないということが素人でも想像できる。
そして、もし仮に、安全であると言われている範囲内の空気が血管の中に入ってしまったとしても、
血管内に入ってしまった空気は体の機能によって消えてなくなるのだそう。
もちろん、相手はプロフェッショナル。
死に至るほどの量の酸素が、
偶然に血管の中に入ってしまうということは起こりえないのだろうけれど。
採血や点滴、注射などのときに不安を抱いている方にお話して差し上げるもよし、
ハラハラしてしまったときに思い出すもよし、
サスペンス作品中で、軽く突っ込んでみるもよし、
あなたのタイミングでチラリ、思い出してお役立ていただけましたら幸いです。