目の前を青光りするサンマを咥えた猫が通り過ぎた。
今時、そんな……。
そう思った私は2度ほど、過ぎ去った猫の後ろ姿を確認し直した。
悠々と歩みを進める猫の口に咥えられた、
細長いサンマのシルエットを印象的に思うのは私だけではなかったようで、
すれ違う人間たちが次々に振り替える光景もまた、私の目には印象的に映った。
獲物を捕獲する猫と言えば、
イギリス政府には国家公務員として籍を置き、働いている猫がいる。
イギリス政府の役人を務めているのは「人」だけではないのだ。
初めてこの猫の存在を知った私は、そのような体での話だと思っていたのだけれど、
彼らには、食事やボディーケアなどを含め、彼らを飼うためにかかる費用全般が、
給与という名目で国から支払われているという。
首相官邸サイトでは彼らを紹介するページも存在しているし、
その様子が一部報道されることもあるのだ。
イギリス政府に国家公務員として籍を置いている彼の仕事は、
首相官邸内で悪さをするネズミを駆除すること。
イギリスは日本と比べるとネズミの被害を耳にすることが多いため、
人間がネズミ駆除の対策を行うよりも猫の本能を借りる方がコストがかからず、
効果もあるという判断のようだ。
現在、『ネズミ捕獲長』という肩書を与えられている猫の名前は忘れてしまったのだけれども、
首相官邸を守っているネズミ捕獲長は、
SNSのアカウントで様々なオフショットも見せてくれている。
首相官邸以外でも、省庁でネズミ捕獲の任務を遂行している猫もいるそうで、
現在、国家公務員として5、6匹の猫たちが活躍している。
彼らはネズミ捕獲長を筆頭に官邸や省庁を陰から守り支えるという重要任務を担っているのだ。
このような話題を耳にすると、猫ブームに乗ってのことだと思われがちなのだけれども、
この首相官邸で飼われる猫には、長い歴史があり、始まりは16世紀頃だと言われている。
その頃からネズミ駆除のために飼われていたと言うのだから、
当時は、今とは異なる「餅は餅屋」といったような、
人間と猫との信頼関係があったのかもしれない。
様々な性格の猫たちが受け継いできたネズミ捕獲長だけれども、
現在の捕獲長は、職務の成果が伸び悩んだ時期があったそうで
一度、その職を解雇された後に現職に復帰した異端猫でもあるのだとか。
無意識のうちに人間都合や自分都合だけで、ものごとを見て、判断してしまうことがあるけれど、
関わる相手の特徴や特技、性格など、
相手そのままを信頼することができたなら、認めることができたなら、
様々な共存の在り方が生まれるのかもしれない。
それにしても……。
サンマを咥え行く猫の後ろ姿の逞しかったこと。
私もシャキッと背筋を伸ばして今日も過ごそう、そう思ったある日の光景だ。
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