ドラッグストアに立ち寄ったときのこと。
日用品が並べられている陳列棚の前で外国人の方と店員が、
日本語と英語とジェスチャーを交えたやり取りを交わしていた。
互いの熱量から察するに、スムースな意思疎通ができていないのだろうということは、
少し離れたところで商品を物色していた私からも推測できた。
外国暮らしを始めた頃の私にも似たような経験があり、
手を差し伸べてくれた現地の方に、とても感謝したことを覚えている。
そのような出来事は一度や二度ではなかったこともあり、日本でそのような方を見かけたら、
私にできることはさせていただこう、そう思っている。
思ってはいるのだけれど、日常の中で使う機会が激減した言語は、
語彙も文法もザルの網目から零れ落ちていくかのように、
心許ない状態になっていくのが現実だったりもする。
そこに日本人気質が顔を出し、出しゃばっているような状態になるのはちょっと……。
今は英語を使う気分じゃないな……。きっと私が出しゃばらなくても何とかなるはず。
などと、自分で自分に言い訳をして素通りしてしまうこともある。
ただ、その日は、前日の夜にしっかりと眠り、脳内がフル充電状態だったからだと思うのだ。
2人に声をかけることにした。
外国人の方は「カクテルスティック」が欲しいと言い、
それを受けた店員は、カクテルにフルーツを添えるときや、
ウィンナーやサンドウィッチ、おつまみなどにも刺すことができる
パーティー用の「ロングピック」を見せていた。
しかし、外国人はそれではないと首を横に振りカクテルスティックと言う。
店員は歯の隙間に挟まったものを取るときにも使う爪楊枝のこと?と
爪楊枝のジェスチャーをしてみせたそうなのだけれども、再び首を横に振られたと言った。
それを聞き、このシチュエーションは経験がある、そう思った。
外国人の方に、あなたが探しているのは、
木製のシンプルなカクテルスティック?と尋ねると大きく頷いた。
私たちから見れば爪楊枝のことなのだけれども、
外国人の方の目には、爪楊枝で歯の隙間に挟まったものを取る行為は、
あり得ないほどお行儀が悪い印象に映るようなのだ。
だから、店員は既に答えに辿り着いていたのだけれど、
例のジェスチャーが意思の疎通を阻んでいたようだった。
その場は直ぐに解決し、私もドラッグストアをあとにしたのだけれど、
ふと、どうして日本人は爪楊枝で歯の隙間のお掃除をするのだろうか、と思った。
そして、いつものように爪楊枝を知る旅へ出た。
爪楊枝は、歯の隙間にはさまった物を取ったり、
食べ物を突き刺したりするための小さな楊枝のこと。
今でこそカクテルスティックとして使ったり、調理時の便利アイテムとして使っているけれど、
楊枝は、もともと、歯に付着した汚れを取り除き、口の中を清潔にするために使われていた
仏家の道具のひとつだったと言います。
日本には、奈良時代に仏教と一緒に伝わったそうで、
爪楊枝の「爪」は、「爪先の代わりに使うもの」という意味があるのだそう。
そして、私が想像していた以上に「仏教と楊枝の繋がりは強い」と感じたのは、
お釈迦様が、木の枝で歯を磨くことを弟子達に教えたと言い伝えられていたことだ。
このような爪楊枝の歴史を知り、私は思った。
外国人は、この日本人の爪楊枝の風習を知り、
「なんてお行儀が悪いのかしら」と顔を歪めることがある。
日本人女性の中には、男性が爪楊枝を使う、食後のあの姿にガッカリするという人もいる。
しかし、爪楊枝は本来、そのようなもので、何も間違ってはいない、
と言うよりは、むしろ正しい使い方なのだ、と。
お釈迦様まで登場してしまったら、仕方ないではないか、と。
爪楊枝にも歴史あり、でございます。