収納庫の中に、置き場所が決まっていないものを入れておく仮保存ボックスがある。
先日の、夏越の大祓ついでに久しぶりに、その箱の中を覘いてみた。
プチプチに包まれた小さなそれを手にとり、中身を確認した。
それは繊細な木彫りで作られた一対の麒麟の置物であった。
どこで手に入れたのか覚えていないけれど、偶然立ち寄った木彫り職人のお店でいただいたものだ。
職人技に引き込まれるようにして、そのお店に足を踏み入れたのだけれども、購入する気も予定すらもなかった当時の私。
ただ、その職人の手が生み出したものは、どれもこれも命が宿っており、今にも動き出しそうな雰囲気があった。
その中でも、両手の中にすっぽりと納まるほどの小ささでありながら、
可愛らしさと迫力とを持ち合わせていた、その麒麟に目が留まり、
ペットショップでペットを眺めているような気分で、しばし、その麒麟を堪能した。
すると、ガラス越しに彫り作業をしていた職人が手を止め私のそばまでやってきた。
おもむろにその麒麟を取り上げると、手にしていた新聞紙にそれを包み、「可愛がってやって」と私に手渡したのだ。
購入する気も予定もなかったことを伝えると「いいから、いいから、早くカバンにしまいな」と言った。
まるで、おじいちゃんが、娘にバレないように孫にお小遣いをあげるときのような、そのような空気を感じた。
そうして私のもとにやってきた一対の麒麟が、それだ。
昨年、人生で十数回目の引越しを済ませたのだけれど、
まだ定位置を見つけられていなかったことを、麒麟とあの時の職人に心の中で詫びながら、ようやく、場所を見つけることができた。
そもそも麒麟とは何ぞや?と思われている方のために、この機会にサクッとご紹介すると、
麒麟は、中国に古から伝わる伝説上の聖獣だ。
体全体を見ると鹿に似ているのだけれど、顔は龍、尻尾は牛、蹄(ひづめ)は馬のようだと言われている。
麒麟には雄と雌がおり、その見分けは角。頭に角があれば雄で、無ければ雌だ。
体の毛は黄金に光っているそうなのだけれど、背中で風に靡く毛は陰陽五行説からきているのでしょう、五色だと言われている。
正確は穏やかで優しく、寿命は1000年を超えるのだとか。
他にも、中国を治める皇帝が思いやりを持って国を導いていると現れる聖獣だという話もある。
麒麟は、時代もののファンタジー作品などに登場することもあるけれど、
日本で、多くの方が知る霊獣・麒麟の姿と言えば、もしかしたら、キリンビールのロゴマークかもしれない、とこれを書きながら思った。
このキリンビールのロゴマーク誕生に関しては諸説ある。
キリンビールは公式発表、公式説明などは一切行っていないのだけれど、
このロゴマークの誕生には、坂本龍馬やトーマスグラバーが関係しているという説があるのだ。
私の脳内にある詳細は、うろ覚えであるため、ここに記すことは控えさせていただくけれど、
正式な答えに辿りつくことは今のところできない説ではあるものの、
なかなかロマンの匂い漂うロゴマークであるように思う。
キリンビールのロゴは、缶ビールや瓶ビールのラベルで目にすることができるけれど、
ロゴとして描かれている麒麟の体の中に、「キリン」の文字が隠されていることをご存知だろうか。
ディズニーリゾートで隠れミッキーを探すようなものに似ているけれど、
麒麟のたてがみの中に「キ」と「リ」の文字が、尻尾の中に「ン」の文字が隠されているのだ。
「リ」だけは、90度右へ回転したような印刷なのだけれど、
お食事が運ばれてくるまでの、ちょっとした楽しみに、探してみてはいかがだろうか。
見つけられない時には、写メを撮って角近くのたてがみの中と、尻尾の中を拡大すると見つけられるかと。
しまい込んでしまっていた我が家の麒麟たちへのお詫びも兼ねて、
今回は麒麟の話、数珠繋ぎでございました。
これで、ご機嫌を直してくれると良いのだけれど。
麒麟を目にした際には、今回のお話をほんの少しだけでも思い出していただけましたら幸いです。
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