明け方、今よりも少しだけ厚みがある掛け布団に変えても良さそうだと思いながら、
真夜中に冷えてしまった体を温めるようにして布団に包まり直した。
薄目を開けて時計を見ると、アラームが鳴る5分ほど前だった。
その日は、朝から雨がパラついており、耳を澄ませば、外を行き交う車のタイヤが水を弾く音がした。
気温も低く、ブラインドの隙間から差し込む光は青白く、気が付けば、あれほどまでに暑かった夏は過ぎ去り、
ベッドから出たくないと思いながら微睡む時間が心地よい季節がやってきていることを、静かに感じた。
昨夜、眠りにつく直前まで眺めていたテレビの天気予報では、
しばらくの間は、曇りや雨の日が続きそうだと言っていたから、秋の長雨の季節に突入したのだろうと思った。
季節が秋に変わりたての今頃は、ススキが穂を揺らす時期でもあることから、秋の長雨のことを「すすき梅雨」と呼ぶことがある。
他にも、長々と降り続く雨を表す「霖(りん)」という言葉を使って「秋霖(しゅうりん)」とも。
私たちが梅雨と言って真っ先に思い浮かべる、紫陽花の頃の梅雨には、
梅雨入りや梅雨明けといったことにも注目が集まるけれど、すすき梅雨に、この線引きはない。
これは、すすき梅雨の雨は、しとしと、ぱらぱらと優しく降る雨であることから、人々の生活に大きな影響を与えるほどの勢力が無いため、
いつの間にか始まり、いつの間にか「すすき梅雨」を終えてしまうからだと言われている。
そして、晩秋から冬に差し掛かる11月頃の秋の長雨は、山茶花(さざんか)が咲き始めることから、「山茶花(さざんか)梅雨」と呼ぶ。
こちらも「すすき梅雨」同様に勢力の弱い雨なので、美しい呼び名を持っていながらも、あまり知られていない雨である。
ちなみに梅雨は4種類のあると言われており、順に、「すすき梅雨」、「山茶花(さざんか)梅雨」、
冬から春に変わる頃に降り続く雨は菜種梅雨(なたねづゆ)と呼ばれ、誰もが知る紫陽花の頃の梅雨へと続く。
天気予報などで使う言葉に選ばれるものは、秋の長雨や梅雨といった、シンプルで分かり易いものが多いけれど、
日本には、その時季に降る雨の表情や風情を的確に表現した雨の呼び名が、数多くあり、触れぬまま過ごすのは少々惜しいように思う。
これから訪れる梅雨の雨は優しく、ススキや山茶花を濡らします。
雨の日は視界が狭くなりがちですが、少しだけ目線を先へ向けて、この時季ならではの梅雨に触れてみてはいかがでしょうか。
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