駅の構内で老夫婦に声をかけられた。
タクシーに乗りたいのだけれど、長距離を歩くことができない為、
ここから一番近いロータリーへ行くには、どちらへ行けばいいのだろうか。ということだった。
一番近いロータリーへ行くには、階段を使わなくてはいけなかったため、
エスカレーターやエレベーターを利用して移動できる場所の方が良いのかどうか尋ねてみた。
すると、足腰は丈夫で階段も大丈夫だから、できるだけ近くをということだったため、一番近いロータリーへの道順を伝え、お別れした。
そのやり取りの最中に、ご主人の腕をぎゅっと掴んだままのご婦人が、
「私たち夫婦は、グロッギーなのよ」とチャーミングな笑顔で仰ったのだけれども、
この笑顔で「もう歩けないわ」などと言われたら、ご主人は頑張って最短ルートを探すに違いない、と思った。
現に、そのような状況になっていたなと思いながら2人の背中を見送った。
そして、ふと疲れ果てた様子に使う「グロッギー」という言葉も、随分と久しぶりに耳にしたような気がした。
確か、ラム酒か何かから生まれた言葉だと、いつだったか、お酒の席で聞いたような記憶がある。
しかし、その時の記憶の断片はあるのだけれど、その先を思い出すことができないまま数日が経過し、私のシナプスが1本消滅したのだと思った。
今回は、このような流れで“グロッギー”の背景をサクッと簡単に覘き直します。
ワタクシの脳内整理も兼ねておりますが、言葉の奥に広がる景色にご興味ありましたら、読書気分で少しだけお付き合い下さいませ。
結論から先にお伝えしますと、このグロッギーという言葉、イギリス海軍のエドワード・バーノン提督のあだ名から取られたものでした。
※グロッキーと間違われやすいのですが、正しくはグロッギーです。
「提督(ていとく)」と言うと、いまひとつ分かり難いのですが、海軍艦隊の司令官と言うとイメージしやすいでしょうか。
彼が司令官をしていた18世紀のイギリス海軍の水兵たちには、ラム酒が支給されていたといいます。
しかし、航海中に、その支給されたラム酒を数日分、一度に飲みきってしまった者が出たため、
司令官は、原酒の支給を止めて、ラム酒を水割りで支給することにしたのだそう。
しかし、水兵たちはラム酒を楽しみにしているわけですから、
水割りなんて薄いもの、飲めたものじゃない!と、司令官に対する不満が高まります。
きっと裏で愚痴のひとつや二つ言い合っていたと思うのです。
水兵たちは、司令官がいつも着ている、粗い生地で仕立てられたグログラム(グロッグラム)コートから、彼に“オールドグロッグ”というあだ名を付け、呼んでいたのだそう。
その彼(オールドグロッグ)が、ラム酒の水割りをルールにしたため、水兵たちはラム酒の水割りをグロッグと呼ぶように。
しかし、人は慣れるものなのでしょうね。
次第に、グロッグは、水兵たちに好まれるお酒になったと言います。
そして、原酒よりも飲みやすいグロッグを飲み過ぎて酔い潰れる水兵が増え、
今度は、その酔い潰れた様子をグロッギーと呼ぶようになり、
更には、その酔い潰れた様子と、疲れ果てた様子や、疲労困憊の様子が重なり、
疲れ果てた様子や、疲労困憊の様子もグロッギーと呼ぶようになったようです。
それにしても、不満の感じ方や、このようなあだ名の付け方は、いつの時代も同じようなものなのだなと、妙な関心を覚えた柊希でございます。
グロッギー、もし使うような場面に遭遇されましたら、ちらりと思い出していただけましたら幸いです。
画像をお借りしています:https://jp.pinterest.com/