花屋をのぞいたら、素敵な紫苑(しおん)の花がガーデンバケツに生けてあった。
紫苑(しおん)は、花の中央が黄色く、その周りをぐるりと囲む花びらは薄紫色をしていて細長く、
秋を告げるキク科の花である。
小さくて地味な花だと思われることが多いけれど、平安時代には貴族たちがこぞって紫苑(しおん)を植えていたこともあり、
源氏物語や枕草子、今昔物語などにも登場する花である。
そして、この紫苑(しおん)には不思議な力があると言われていたからなのか、
そのエピソードを元に、日本で最も古くから花言葉を持っている花だとも言われている。
今回は、秋風に揺れる可愛らしい紫苑(しおん)のエピソードを簡単に、と思っております。
秋の夜長に、ほっと一息。
読書気分でのぞいていって下さいませ。
紫苑(しおん)が持つ不思議な力が登場するのは今昔物語です。
今昔物語という本は、平安時代後期辺りだったでしょうか、
当時の人たちが慣れ親しんでいた、今で言うところの“日本昔ばなし”のような作品が、多数、収められている本です。
この中に納められているお話の中のひとつに、紫苑(しおん)は登場致します。
あるところに、父親思いの兄弟がおりました。
しかし、ある日突然、父親が亡くなってしまったのだそう。
幼き2人は嘆き悲しみながら成長していくわけですが、
年月を重ねても、重ねても父親のことを忘れる事は出来なかったと言います。
しかし、兄弟も大人になり、朝廷に仕える身となり、
自分の時間が無いくらいにまで忙しく働く日々を送るようになります。
そのような状況を前に兄は、
「私は、父へ抱く悲しみを紛らわせることができそうにない。
聞くところによると、萱草(かんぞう)という草は、見る人の思いを忘れさせてしまうのだとか。
だから、父のお墓のそばに植えてみよう思う」
と言って、「忘れ草」の異名を持つ萱草(かんぞう)を植えたのだそう。
その後、弟は、これまでと変わらず兄とお墓参りへ行こうと声をかけるのですが、
兄の意志によってなのか、忘れ草の力なのか、タイミングが合わず、
兄弟が2人揃って父親のお墓参りいをすることはなくなったと言います。
このような状況に弟は、自分だけは絶対に父のことを忘れないと心に誓い、
思い草の異名を持つ紫苑(しおん)を父親のお墓のそばに植えたといいます。
そして、それぞれの花が持つ不思議な力が働いたのか、
兄は父を忘れたまま、弟は父をずっと思いながらお墓参りを続ける日々が続いたのだそう。
ある日、弟が父親のお墓参りをしていると、
この一連の様子を長い間見続けてきた、父親のお墓を守っているという鬼が、弟に話かけるのです。
「お前が、父親を恋い慕うその気持ちは、年月を経ても全く変わらなかった。
だから私も父親と同様に、お前を守ってやる。
私には、その日に起こる善悪の事を予知する力があるから、
お前の為に、毎日夢で、その日に起こることを知らせてやろう」と。
弟は、それからの毎日、その日に自分の身に起こる事を夢で知ることができたため、
災厄を除けることができ、幸せな日々を送ったのだそうです。
このエピソードから、
紫苑(しおん)の花言葉は、「君を忘れない」、「遠方にある人を思う」というものに決められたのだとか。
紫苑(しおん)は、不思議な力を秘めているらしい、小さくて可愛らしいお花です。
目にする機会がありましたら、兄弟のお話をちらりと思い出していただけましたら幸いです。
そして、大切な方へお供えする秋のお花にも、紫苑(しおん)などいかがでしょうか。
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