少し前に、「あっという間に寒露の頃になりそうですね」という文章で始まるメールをいただいた。
寒露(かんろ)かと声にすると、その響きを聞いた私の脳内には、
天上の神々が召し上がると言われているお酒の甘露(かんろ)が思い浮かび、
神在月の出雲で、神様たちが、ひと仕事の後に甘露(かんろ)で一杯、という画が映し出された。
風情も何もあったものではないような想像だけれども、
そのような宴席があるのであれば、神様方の裏話と甘露を目当てに、一度くらいお邪魔してみたいものである。
一方の、いただいたメールに登場した寒露(かんろ)はというと、
夜空が澄み渡り、草花や草木の葉などに宿る露が、寒さで凍る一歩手前くらいにまで冷たく感じられる頃を表す言葉で、
本格的な秋の始まりを告げる言葉でもある。
この寒露という時季の始まりの日は、太陽の位置によって決められているため、
毎年同じという訳ではないのだけれど、天体の動きや天体が刻むリズムが、
今の状態と変わらなけば、約30年後辺りまでは、10月8日に始まり10月22日に終わるとされている。
簡単に言うならば、寒露の期間は次々に秋が顔を見せ始めるので、
たっぷりと秋を堪能することができる時期でもある。
秋と言えば、キノコ類が一段と美味しくなる季節だ。
まだ残暑厳しい頃、ひと足先に店頭に並び始めた外国産の松茸の中に、満を持して、
国産の松茸をはじめとする秋ならではのキノコが並び始めている。
これだけで、見慣れた空間が一気に秋めいて見えるから不思議である。
松茸を目にすると「香り松茸、味しめじ」という言葉を思い出すけれど、
この言葉に登場する“しめじ”は、“本しめじ”のことだと言われている。
“本しめじ”は、味、香り共にとても美味しかったことから、先人たちにも好まれてきたキノコのひとつなのだそう。
しかし、“本しめじ”は雑菌に弱い上に、人が栽培するとなると、とても手間がかかるため、
シイタケをはじめとする他のキノコのような栽培が難しいと言われている。
しかも、天然の“本しめじ”の収穫量自体も少ないため、
近年、“本しめじ”は、希少なキノコに分類されるようになっており、
私たちが普段手に取っている“しめじ”と呼んでいるキノコは、実は“本しめじ”とは似て非なる“ぶなしめじ”というキノコである。
このような説明をすると、“ぶなしめじ”は“本しめじ”の偽物というイメージを抱く方もいらっしゃるかもしれないため、もう少しだけ補足しておくと、
栄養価は双方ほぼ同じで、女性に嬉しい食物繊維や鉄分、
余計な塩分を排出させて、浮腫みを取り除く手助けをしてくれるカリウムなどを豊富に含んでいる美味しいキノコだ。
1点だけ異なるところは、“ぶなしめじ”には、“本しめじ”には無いビタミンCまで含まれているということだろうか。
香りや旨味の濃さや深みという点では、“本しめじ”に軍配が上がると言われているけれど、
私個人は、それぞれに、それぞれの美味しさがあるように思う。
そもそも、似てはいるけれど別物なので、それで良いではないか、と思っている。
ただ、この時季ならではの味覚という意味では、“本しめじ”の方に手が伸びるのだけれども。
松茸ももちろん良いのですが、
今年は、秋の旨味が閉じ込められた“本しめじ”にも注目してみてはいかがでしょうか。
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