どんよりとした白い空からポツポツと雨が降り始めた。
しばらくすると、換気のために開け放っていた窓から、雨を弾くタイヤの音が聞こえ始めた。
数日前のテレビで、地球の平均気温が上昇しているという話題を久しぶりに耳にしたけれど、
日本のように、季節の移り変わりを感じられる場所で暮らしていると、
他人ごとではない、そのような話題も、あっという間に、頭の中から掻き消されてしまうように思う。
ヒンヤリとした秋の空気を感じるこのような日は、
湯気さえも食欲を刺激してくるような、温かいメニューを作りたくなる。
中途半端に残っていたマカロニを取り出し、その日はマカロニ入りのグラタンを作ることにした。
カランカランと乾いた音を立てるマカロニを眺めていると、話術に長けた友人のことを思い出した。
この友人、とても話題が豊富なので、言葉を交わせば、感動したり、驚いたりと、
様々な感情を引き出されながら、楽しい時を過ごすのだけれど、
時折、その話の中に“ホラ話”を混ぜ込むものだから、
この話はどこまでが真実で、どこからがホラなのか。と気が抜けず、少々厄介なのである。
もう両の手では足りないくらいの月日を遡ったある日のことだ。
その友人を含めた数人で、食事に出かけた。
その時に誰かが注文したマカロニグラタンがテーブルの上で、美味しそうな湯気を立ち昇らせていた。
熱々のそれを、みんなでシェアしていたのだけれど、
例の友人は、マカロニグラタンを口に運ぶ私たちを眺めながら、
「マ・カロニ」は「まぁ、素晴らしい!」という意味だって知ってる?と口火を切った。
また始まった。
きっと、その場にいた全員が、それに似た感情を抱いたに違いない。
そして友人は、このような話を続けた。
マカロニはイタリア発祥のものではなく中国のものらしいと。
あの、商人であり、冒険家でもあったマルコポーロが中国へ行った当時、
中国には、今でいうところのマカロニに似た食材があったのだそう。
マルコポーロは、これを自国へ持ち帰り、当時の法王に献上したという。
すると、法王は「まぁ、素晴らしい!」とか「おお!素晴らしい」だとか言ったそうなのだけれども、
この、法王が発した言葉が「マ・カロニ」だったことから、
この食材は「マカロニ」と名付けられたのだという、本当のような、ウソのような話があると。
この手のエピソードは、真実味を帯びたものが、必ず正解だとは限らないため、
拍子抜けしるような真実があってもおかしくないか、と思いかけたときだった。
友人は、マルコポーロが初めてマカロニをイタリアに持ち込んだという説を見かけることがあるけれど、
実際は、アメリカのパスタ業界が、パスタと硬質小麦の栽培を根付かせるために作った、
広告用の作り話だという種明かしをしたのだ。
作り手は、始めから広告用の作り話として作っており、
また、マルコポーロが中国へ行く随分と前に、既に、ジェノヴァの商人が、
シチリアからパスタを輸入していたことが分かる記述が残されているのだけれど、
作り話を真に受けった人々が予想以上に多かったのだろう。
一説として広がっているそうなのだ。
確かに、アメリカのパスタ業界が作った広告用の作り話だと知ってからも尚、
私の記憶に残り続けている「マ・カロニ!」の話を思い返すと、
人の記憶に残る、目には見えない何かが含まれている、不思議な話のようにも感じられる。
中途半端に真実味を帯びているため、確かに紛らわしいのだけれど、
ちょっぴり気分が楽しくなる広告用の作り話も、これはこれで、面白い。
マカロニを召し上がる機会がありましたら、ちらりと思い出していただけましたら幸いです。
しかし、その時には、これが広告用の作り話だということをお忘れなく!
今日も、何かしら気分がちょっぴり上がる瞬間がありますように☆彡
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