大切に履いている靴をメンテナンスしていただこうと思い、店舗へ足を運んだ。
お店の外からチラリと中をのぞくと、時々お世話になるベテランスタッフがいることが分かり、扉を押し開けて中に入った。
泊りがけの予定が無い限り、同じ靴を連続で履くことは少ないため、靴が大きく傷むようなことはないのだけれど、
時々、メンテナンスをプロにお願いしておくと、靴がより自分の足に馴染むようになり、
履き心地の良さが増すように感じるため、気が向いたときに、少しずつお願いすることにしている。
その日は、お茶をいただきつつ仕上がりを待っていたのだけれど、他のお客さんが居なかったからだろう。
ベテランスタッフが、靴磨きは女性のスキンケアやメイクと同じだと話し始めた。
ブラシや汚れを落とすリムーバーを使って、靴の表面に付いた汚れを取り除くのは、クレンジングや洗顔と同じだと。
そして、次に塗り広げる靴の栄養クリームは、素肌がさらけ出された状態でつける化粧水や乳液、美容液や、クリームといった、水分補給と保湿を担うもの。
靴は外出時に履くものだから、艶出しのワックスで肌表面を仕上げるのだけれど、
これは、女性がファンデーションを付けるようなものだと続けた。
靴のお手入れを面倒だと感じる人が多く、お手入れを一度もしないまま履き潰される靴が多いけれど、どのような靴も女性のスキンケアやメイクの手順でお手入れをするだけで、
履き心地の良さが増し、劣化を抑えることができると言う。
ビジネスシーンなどでは、履いている靴をみれば、その人がどのような人なのか分かると言うけれど、
日々、靴と向き合っている方から見ると、その人がどのような人なのかとい言うだけでなく、
ライフスタイルや性格、自分自身をどう扱っているのかといったことまで、見えてくるというのだ。
高価な靴を履いているから良いというような安易な視点ではなく、
靴が自分の主人がどのような人なのかを語ってくるのだと、そのベテランスタッフの方は言った。
そして、更に続けたのだ。
もし、大切な人の靴に触れる機会があったらなら、自分でスキンケアやメイクをするような気持ちで、手順で、その靴を磨いてあげてごらん、と。
くたびれた靴が、きれいになって生き返るだけではなく、
その靴を履いている人が、毎日、どのような気持ちで頑張っているのか、
疲れているのか、元気なのか、何かしら感じ取ることができると思うと、はにかんだような笑顔で。
きっと、この方は毎日、多くの靴と静かに言葉を交わし、持ち主の気持ちにも寄り添っているのだろうと思いながら、
ピカピカになった靴と素敵なお話を手に、お店を後にした。
機会がありましたら、大切な方の靴を磨いてみてはいかがでしょうか。
喧嘩の仲直りのきっかけに靴を磨くというのも、
見えていなかった何かが見える機会になるのかもしれません。
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