車窓から外を眺めていると、風に靡く鯉のぼりの姿が目につくようになった。
鯉のぼりを出す時期や片付ける時期に決まりはないようだけれど、
一般的には、春分の日を過ぎた辺りから都合が良い日に飾れば良いと言われている。
しかし、春分の日を過ぎた頃は、気温も行きつ戻りつだからなのか、4月に入ってひと息着いた頃に飾るご家庭が多いのだとか。
お片付けに関しても何も決まりがないため、5月中旬頃までに片付けるご家庭が多いそうなのだけれど、
地域によっては旧暦でお祝いをするため、6月中旬辺りまで逞しい姿で泳ぐ鯉のぼりを目にすることができるようだ。
先日、信号待ちをしていると私の後ろに立った親子の会話が聞こえてきた。
母親が「今年は鯉のぼり、どうする?」と言うと子どもが「もう鯉のぼりって歳じゃないし」と返した。
「鯉のぼりじゃない歳」とは何歳のことだろう?と気になり、そう感じているらしいすぐ後ろにいる少年の御年を確かめるべく振り返りたかったのだけれど、
振り返るのを躊躇っている間に信号が青に変わり、一斉に人が動いたものだから、確認できぬままとなった。
いつだったか、鯉のぼりは、子どもの成長や幸せを願うものなので、子どもが何歳になっても飾ってもよいのだと見聞きした覚えがある。
親から見ればいつまで経っても我が子は子どもであることに変わりないのだろうけれど、いつまでも大きな鯉のぼりを外に掲げるのはいかがなものか、と感じる流れが一般的なようで、
外飾りタイプのものから、室内に飾ることができる置物タイプに買い替えるご家庭も多いと聞く。
こうなると、子どもの為のものだけでなく、季節のインテリアとしての役目も加わるため、
可愛らしいものからスタイリッシュなものまで、幅広いテイストのものが売れるのだそう。
私はこれまで「鯉のぼりを卒業するとき」というものを意識したことが無かったのだけれど、親子の会話を耳にしてからは、
このご家庭はどのようなタイミングで鯉のぼりを卒業するのだろうか、という思いもちらつかせつつ風に靡く鯉のぼりを眺めるようになった。
「鯉のぼりを飾るのは今年が最後」と決め、最後の鯉のぼりを満喫してから卒業するのか、
「何となく今年はもう鯉のぼりじゃないわね」などと言って卒業を迎えるのか。
きっと、そこにもご家庭の数だけ、子どもの数だけストーリーがあり、子どもは、こうして幾つもの卒業を重ねて大人になっていくのだろう。
重ねたはずなのに、自分の中にある大人になり切れぬ部分を自覚している私は、「大人とは、一生をかけてなるものだ」と最近は思っているのだけれど。
風に靡く鯉のぼりを見て、そのようなことを思った日。
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