CDの類を整理していると、浴衣の着方と記されたCD-Rが出てきた。
非売品と印字してあったので、和装品を購入した際にいただいたものなのだろう。
ケースを覆っているセロファンを開封し、真っ新なそれを再生しながら整理作業を続けることにした。
手を動かしながら横目で見ていると、一般的な浴衣の着用手順を丁寧に紹介するもので、浴衣初心者にも分かり易い構成になっていた。
私には必要ないけれど処分してしまうのも忍びなく、今回は断捨離保留ということで、もう少しだけキャビネットの中に保管しておくことにした。
このケースの中には1枚の紙も封入してあった。
広げてみると浴衣の着用手順が、可愛らしい絵で記してあった。
その絵を眺め、これに似た何かを最近見たような気が……と思いかけたとき、最近初めて知った擐甲図歌(かんこうずか)に似ているのだと思い出した。
私たち、先人たちは誰でもササッと着物や甲冑などを着ていたと思い込んではいないだろうか。
もちろん、今の私たちが毎日洋服を脱ぎ着するように、着物を脱ぎ着していたのだから、その辺りは問題なかったと思うけれど、
着物を着る機会が減った私たちと同じように、国が安定し、戦も無くなり、穏やかで平和な日々が続いていた江戸時代後期を生きていた武士たちは、甲冑を着る機会がなくなったため、
武士でありながら、甲冑をどのように着たら良いのか分からない、知らない世代も出てきたといいます。
このように甲冑の着方を知らない武士向けに登場したのが、甲冑の着方を絵で紹介した「擐甲図歌(かんこうずか)」と呼ばれるものだ。
甲冑の着方は、文章と味が滲み出ている手書きの絵で紹介されており、甲冑初心者に分かり易い構成だ。
私が手にしている浴衣初心者向けのCD-Rに入っていた、可愛らしい絵で記してある浴衣の着用手順と同じである。
ワタクシ、駅のホームでこの擐甲図歌(かんこうずか)がプリントされたクリアファイルを手にしている学生を見て、何とシュールなクリアファイルだろうかと思ったのだけれど、
幾つかの偶然が重なったことがきっかけとなり、そのシュールな絵柄が国立公文書館に保管されている「擐甲図歌(かんこうずか)」であることを知ったのだ。
戦を知らぬ武士が、この手順を見ながら慣れない甲冑を、ああだろうか、こうだろうかと苦戦しながら着ていた様子を想像すると、何とも微笑ましい。
当時、戦を知る者たちから見れば「今の若者たちは、甲冑のひとつも着れんのか、情けない」とため息の一つや二つ、ついただろうか。
それとも、甲冑の着方を忘れてしまうくらい平和な世の中になったことに目を細めただろうか。
そのようなことを想像してみたりもして。
擐甲図歌(かんこうずか)が、平和な世の中に対して気を抜くなと言う意味で登場したのか、甲冑文化を絶やしてはならぬという意味で登場したのかまでは分からないのだけれど、なかなか興味深い資料である。
甲冑を着れなくなった武士向けの、ちょっとシュールな擐甲図歌(かんこうずか)は、国立公文書館デジタルアーカイブでも自由に見ることができます。
ご興味ありましたら、一生懸命甲冑を着る武士の挿絵をのぞいてみてはいかがでしょうか。
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