その日の3度目は炊飯器だった。
マグネット式の電気コードが使われている炊飯器、ホットプレート、電気ケトルの電気コードが知らぬ間に外れており、スイッチを押したにも関わらず何も動いていなかったという失態をやらかしたのである。
私の注意力が足りていなかっただけで家電が悪いわけではないのだけれど、思わず、どうしてポロリとはずれてしまうような弱々しい電気コードを採用しているのだろうと、八つ当たりにも似たことを思ってしまった。
それからしばらくして、家電製品の買い替えの下見を兼ねて家電量販店をのぞいたとき、家電の説明をしてくださった店員にそのことを零すと、
高温になる家電は、コードに手や足、その他の何かをひっかけてしまった際に、高温状態の本体や中身によって火傷や思わぬ怪我、火災などを招かないよう、本体から簡単に外れるよう、敢えてマグネット式にしているのだと聞き、何という細やかな気配り設計だろうかと感心した。
そして、気配りが足りないとも取れるようなことを思ってしまったしまったあの日の自分を反省し、マグネット式の電気コードに感謝したのである。
その後も、そのうち買い替えようと思っている諸々の一押しを紹介してもらっている中で、どういう訳か、話題は家電ではなく玉ねぎへと飛んだのである。
確か、「玉ねぎって年々、炒めるのに時間がかかるようになっている印象ってありません?」そのような問いかけから始まった話題だったように思う。
私は、玉ねぎを炒め終えるまでの時間を気にすることがなかったこともあり、そのようなことを言われてもピンとはこなかったのだけれど、煮込み料理に使う飴色玉ねぎを本来の方法で丁寧に作ると時間がかかるかも、と思った。
すると、その店員は、「あれって玉ねぎを流通過程で都合が良いように改良したからなんですよ」と言った。
この手の話は、とりあえず聴いておこうと思う質なので、時間を気にしつつも「美味しさを追求した結果ではなく?」とボールを返してしまった。
もちろん、食感や食味といった美味しさの追求による品種改良も行われているけれど、その他にも、きれいな姿形をした野菜を好む消費者に合わせて、流通時の様々な衝撃に耐えられるだけの傷み難い玉ねぎを追求したところ、
玉ねぎに含まれている水分が少ない品種へと改良が進んだため、玉ねぎをしんなりとさせるには、焦げないよう、ゆっくりと丁寧に炒めなくてはいけなくなっているのだそうだ。
色々と腑に落ちることもあり、玉ねぎひとつをとってみても気付かぬところで様々な気配り改良が行われているのだなと、再び感心することとなった。
その後、この話題が買い替えの予定にはなかった電子レンジセールスに繋げるための伏線トークであることに気が付き、丁重にお断りをして、その場を後にしたのだけれど、家電を通して覗く世の中もなかなか興味深いと思う時間となった。
そして、帰り道、鞄の中に突っ込んだパンフレットを覗き込み、買い替えようと強く思っている洗濯機の情報を何も入手していないことにハッとするのである。
無駄足だったと思いかけたけれど、半ば強引に、知らなかったことを2つも知れたから御の字、ということにした、ある日のひとこまである。
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