寒い……寒い……と呟きながらベッドの中で足をバタつかせてみた。
可能な限り自前の体温を上げて心地良く眠りにつこう、という至極アナログな算段である。
しかし、自分の体温が思うように上がらず、この夜はカシミヤの大判ストールを掛け布団の上にふわりと重ねる策に出た。
すぐに心地良い温かさが生まれ、体がそれに包まれていく変化を感じていたはずなのだけれど、不意に起きる時間を告げるアラームに意識を揺さぶられ、えっ、まだちゃんと寝ていないと思った。
そう思えるほどにグッスリと眠れたということなのだけれど、楽しい時間や心地よい時間は過ぎ去るスピードも数倍速。
寝起きの頭では腑に落ちない気持ちを上手く処理することができず、アラームを止めながら、もう一度布団の奥へ潜り込んだ。
冬のまどろみタイムの幸福感は夏のそれと比べると数倍増しである。
もう一度、このまま眠ってしまってもいいのではないか、ありがちな悪魔の囁きと闘いながら、タイムリミットぎりぎりのところでグイッと体を起こした。
確か、寝具売場で耳にした話だったと記憶しているのだけれど。
睡魔と闘いつつも、どうしても起きなくてはときがある。
このようなときには、お布団の中から手を出して拍手をすればよいのだとか。
この時、やる気のなさが溢れ出ているような拍手では意味がなく、音がパンッと鳴り響くような拍手をすることがポイント。
拍手のどこに睡魔を打ち破るカギがあるというのだろう。
当然そう思ってしまったのだけれど、これは第二の脳と呼ばれる手のひらに刺激を与えることで脳を目覚めさせることができるということだという。
私が時折お世話になっている、お洋服の仕立て屋にいらっしゃる方々は、人生の大先輩と呼べるほどの年齢の方々ばかりである。
以前、その方々との雑談の中で皆さんの年齢を耳にしたのだけれど、リアルに仰け反って驚くほど見た目年齢とギャップがあった。
その時に、皆さんが口を揃えて仰っていたのは、毎日、手や指を動かしているから、脳が私は若いって勘違いしていると思うと。
そして、その勘違いが良い方に作用しているから心も体も元気だと。
よく、脳は良くも悪くもいい加減だから、考え方や意識の向け方ひとつで日常を変えることができるだとか、手や指先を使っていると脳が活性化し老化防止になるだとか言われているけれど、手は、やはりそれくらい脳と密に繋がっているということのようだ。
話が少し逸れてしまったけれど、このような話も含めて見るに、朝の目覚めをスムースにする方法のひとつに、拍手という「テ」があってもおかしくはないと思った。
しかし、私は未だにこの拍手を実践したことがない。
理由は明白。
寝起きの頭でこの情報を引っ張りだすことは思いの外、難しいのである。
目を閉じたままアラームを切ることができるのと同じくらい、オートマティックに柏手を打つことができるようになれば、あの悪魔の囁きと闘う必要もなくなるのかもしれない。
そのようなことを思いつつ、シナモンティーを淹れたある日の朝である。
画像をお借りしています:https://jp.pinterest.com/