今年の夏も暑かった。
私は夏が苦手だ。
オーブントースターの中に入れられて
じっくり炙られている食パンにでもなったかのような気分にさせられる。
(なる必要も、なる事もないのだけれど)パンの身になってみると
美味しくいただいてもらう為の彼らの我慢には感服である。
あのじわりじわり肌の奥へ強い陽射しが浸透していくような感覚は、
少々大げさな表現ではあるのだけれど
当らずといえども遠からずで私にとっては恐怖にすら感じられる。
それなのに、日傘をさすのはめんどくさい、UV機能付きのロング手袋も着けたくない。
自分で言っておいて何だけれど、困ったものだ。
結局、信頼している某日焼け止めスプレーをシューっと吹きつけるだけで過ごしている。
あの日の太陽も、頭上すぐ側にあるように感じられ、陽射しがジリジリとした熱を帯びていた。
時間に余裕ができた私は、強い日差しに目を細めつつ近所のスーパーを目指していた。
道すがら、植木やガーデニングアイテムを扱うお店があるのだけれど、
水やりが済んだ、滴る水をまとった植物たちの瑞々しさにつられて、ちょっと寄り道。
一瞬にして心を奪われた商品があった。
植物では無くガーデニング雑貨の鳥の置物。
植物たちに紛れて展示されていた鳥は、アンティーク加工のようにも見えたけれど、
プライスシールの印字も消え、商品なのか展示品なのか区別がつかない感じで年季を放っているようにも見えた。
ただ、とても素敵な笑顔をした、ふくよかな白い鳥なのだ。
胸にはWelcomeの文字。
何だかHappyがやってきそうな気がした。
「連れ帰ろう」
私はシンプルにそう思った。
鳥を手に取り店員さんの元へ。
売り物なのか、おいくらなのか、恐る恐る聞いてみた。
随分と前から展示されていたのか、店員さんは即答できず、私の前で何冊かのファイルを音を立てながらパラパラとめくった。
ちょっとした緊張感。
しばらくして返ってきた答えは、ゆうに予想額を越えていた。
それでも、連れ帰りたい気持ちが強く「お願いします」と言うと、少し申し訳なさそうに
「古いと思うので3分の1のお値段でいいですけど、本当にコレでいいんですか」と店員さん。
「わー、ありがとうございます。これが欲しいです。」と私。
お値段一気に3分の1。すぐさまハッピーゲットである。
きっとあの時の私は満面の笑みだった事だろう。
あまりの嬉しさにスーパーへ行く事を忘れ、帰宅した私は、すぐさまその白い鳥をお風呂場でゴシゴシと洗った。
キュートな笑顔を向けられた気がした。
室内の観葉植物の側に置こうか、ベランダの観葉植物の側に置こうか、大いに迷ってベランダに置くことにした。
笑顔がとってもキュートなこの彼女(鳥)。
後に我が家のベランダで、
ちょっぴり切なくも心温まる不思議な光景を見せてくれる事になるのだけれど、そのお話はまたの機会に。
出会いはいつだって突然だ。 (後編へ続く……)
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