電車を待っている間に冷えてしまった両の手を交互にさすりながら
暖房の効いた車内へ足を踏み入れた。
両側に一列ずつ長椅子が設置されているシンプルな車内は珍しく空いていた。
「(あ、今日は平日か)」と思いつつ
出口側のスペースに腰かけ静かに目を閉じた。
カタンカタンという車輪の音と繰り返される小さな揺れ、
微かに耳に届く暖房の温かい風の音。
「(あぁ、気持ちい)」
自分の意識が徐々に遠のき薄ぼやけ、
もう少しで、束の間の心地よい眠りに付きそうだった次の瞬間、
賑やかな声と共に場の空気が一変した。
開いたドアから姿を現したのは、
少しひんやりした外気と風の子・幼稚園児ご一考様、だ。
引率している先生の、少し大きな「みんな静かにしてね」の声に
一斉に「はーい!」と、歓声にも似た声があちらこちらから上がる。
微笑ましいが、(いやいや、静かじゃないし)と突っ込みつつ、園児たちを観察してみる。
ニ人一組で手を繋ぐように言われているのか、
みんなそのような形で誰かしらと手を繋いでいる。
手を放しちゃいけません、とも言われているのか
目の前の男の子は握っていた手を反対の手に繋ぎかえると
空いた片方の手でずれ落ちている靴下を上げ始めた。
「(両手で上げた方が早いし簡単だし、きっと安全)」
つい、世の中を熟知してしまった風の大人風が
私の姿など目に入るはずの無い彼へ向けて心の中で吹く。
その時だ。
その一生懸命片手で靴下を上げている彼を見ていた、
少しお姉さんぽい印象の女の子が手を繋いでいるパートナーの女の子に囁いた。
「○○くん、両手で靴下はけばいいのにね、これだから男の子は」
いっちょ前にため息付きだった。
やっぱり、小さくても女の子は女の子というのか、
面倒見の良さの要素を備えているというのか、
結局のところ女性なのだな、と思った。
一方の男の子はまだ、必死だ。
手も繋がなきゃ、靴下もあげなきゃ、と額に薄っすら汗すら滲ませている。
「(二兎を追う者は一兎をも得ずだ、少年!でも、そういう所、可愛いぞ!)」
これは私の心の声だ。
必死な男の子と冷ややかな視線を向ける女の子、
思い思いの方向を見上げたり指さしたりの園児たち。
その子たちを優しく温かな眼差しで見ている先生がた。
世の中の縮図のようにも見えたし、
子供たち特有の世界がそこに在るようにも見えた。
彼らの目的地に到着したようで
先生の指示の元、園地たちが車内をあとにする。
先生が「お騒がせしました」と車内の乗客に一礼すると
先生と手を繋いでいた園児も「お騒がせしました」と真似て降りて行った。
結局、“人”は“人”なのだろうなと思う。
礼儀を大切にしていれば、ある意味、年齢は関係がない。
年下であろうが年上だろうが、そこはあまり重要ではない。
人間関係の広がりも私が感じている以上の可能性が他にもあるのかもしれない。
それにしても、人間観察は面白い。