幸せのレシピ集

cawaiiとみんなでつくる幸せのレシピ集。皆様の毎日に幸せや歓びや感動が溢れますように。

子どもの絵本は、きれいなままじゃなくてもいい。

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私がお世話になっている歯科医院は、

少し前までは昔ながらのアットホームな雰囲気の作りをした医院だったのだけれども

最近、同じビルの同じフロアー内に移転した。

新しい空間はホテルのロビーのようなインテリアと作りで

何となく歯科医院という物に対する怖いイメージが軽減された気がした。

 

全ての診察台が個室になっているのだけれど

もともと子供の患者さんも多かったからなのだろう

歯医者さんを怖がる小さな患者さん用に子供専用の個室まである。

 

細やかな気遣いが子供たちの心を掴んでいるのか、

治療中の子供の喚き声を耳にする事はほとんどない。

まぁ、そのような雰囲気の医院だから

病院嫌いの私もフェイドアウトすることなく治療終了後も

定期健診を受けに通い続けることが出来ている。

 

その日は二か月振りの定期健診の日だった。

少し早めに着いてしまった私は時間を潰す余力が残っていなかったので

院内で待たせてもらう事にした。

少し離れたソファーには、3歳くらいの男の子とママが座っていた。

 

待っている事に退屈したのか

院内の絵本に飽きたのか、

男の子は絵本を読みたいとママに言い出した。

家から持ってきているお気に入りの絵本のようだったけれど

ママはもうすぐ治療だから後で、と何度も言い聞かせていた。

 

その様子を見ていた受付の女性が気を効かせて、

前の患者さんの治療が長引いているから大丈夫ですよと声をかけた。

我慢の限界がすぐそこまで忍び寄っていた男の子に根負けしたママは、

大きな鞄から絵本を取り出した。

 

待合いロビーにある鏡越しに見えたその絵本は、

とても読み込まれていることがひと目でわかるような、

楽しんで読んでいる事がわかるような、

男の子のお気に入りである事が想像できる様な状態だった。

 

きっと、勢いあまってひっぱって破けてしまったのかもしれない。

お友達と取り合いをしたのかもしれない。

何かの拍子にページを折ってしまったのかもしれない。

ママやパパに読んでもらっている最中に

体ごとに覗き込んで破れてしまったのかもしれないし、

運んでいる途中に落としてしまったのかもしれない。

大好きなお菓子を食べながら、

握りしめながら、

その絵本を楽しく捲ったりしたこともあったのかも。

それはそれは、豪快に汚され、破かれ、四隅は潰されていた。

 

だけれども、私にはその絵本がとても幸せそうに見えたのだ。

そのお話しの世界に興味を持って

もっと読んでほしい、

もっと聞きたい、

もっと見たい、

小さな彼の「もっと、もっと」の気持ちをいっぱい浴びているような、そんな絵本に。

 

そのような事を思いながら私は自分の鞄を覗き込んだ。

するとそのタイミングで診察室から私の担当の先生がひょっこり顔を出し、名前を呼んだ。

私は、小さな彼の絵本をチラッと覗き見して診察室へ入った。

 

絵本はきれいなままじゃなくていいのだろう。

きっと、絵本の汚れや破かれた跡や折り目は、

子供の溢れでる好奇心が注がれた証のようなものなのかもしれない。

絵本にとっても、それは関わった子供からもらった勲章だ。

 

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