駅のロータリーでタクシーを待っていた。
その時間帯には珍しく、私の前には数組のお客さんがタクシー待ちをしていた。
全てのタクシーが出はらっていたため、
私はスマートフォンでいくつかの作業をしながらタクシーの順番を待つことにした。
便利な時代になって良かったのか、悪かったのか、
いつでもどこでも誰かに捕まってしまったり、作業を行えてしまえる環境を煩わしくも、有難くも感じながら。
簡単な作業を終えて顔を上げると、先頭のお客さんがタクシーへ乗り込むところだった。
ひとりはお見送りする側だったようで、タクシーへ乗り込む女性に向かって何かを告げているようだった。
パタンっと、落ち着きのあるタクシードアの重低音が辺りに静かに響いた。
その後、お見送りする側の女性が手を振り、
それを受けた車内の女性も手を振り返していたのだけれど、
お二人とも、とても素敵な手の振り方だったため、「(わぁ、素敵な仕草)」と、私のセンサーが反応した。
そう言えば、手を振る仕草は「魂振り(たまふり)」と言って、
古来からおまじないの一種として扱われていた事を思い出した。
日本には、空気を震わせたり、揺るがすことで、神様を呼び起こして魂を奮い立たせる儀式があるのだ。
儀式と言う言い方をすると、大層なことのように感じてしまうけれど、
私たちの身近な習慣を例に挙げると、
神社でお詣りをする時に柏手を打ったり鈴を鳴らしたりするあの行為、
これも魂振り(たまふり)にあたる。
簡単に言うと、その場の空気に動きを与えて神様に合図を送っているのだ。
神様も時には、のんびり寛いでいらっしゃるのかもしれないため、
空気に振動を与えて神様のお宅の玄関チャイムを鳴らすようなイメージと言えば伝わりやすいだろうか。
これを、「魂振り(たまふり)の儀式」と呼んでいた。
この「魂振り(たまふり)」は今の私たちの日常にも既に定着し馴染んでいる。
勘のいい方は既にピンッときていらっしゃると思うのだけれども、
旅に出る人や、出かける人、別れる人を見送る時に
「気をつけてね」「行ってらっしゃい」「またね」「ばいばい」と手を振って見送るこれ、立派な「魂振り(たまふり)」なのだ。
これは、手を振る事でその場の空気を振動させて神様に合図を送り、その場に神様をお招きしていることになる。
この風習は、神様のご加護のもと、
「安全な旅ができますように」
「一日を楽しく安全に過ごせますように」
「安全に帰る事ができますように」
という送る側の気持ちから始まったという。
万葉集などの中にも「魂振り(たまふり)」の儀式が見られるのだけれど、この頃になると、恋のおまじないとしても使われていたようで、恋歌の中でよく目にするシーンだ。
今と違う点といえば、当時はお着物を着ているため、「手を振る」ではなく「袖を振る」という表現で使われているという点。
ワタクシたち、何気なく手を振ることも多いかと思います。
しばしの別れ、長い別れ、別れも様々ですが、このようなことを知ると心を添えて手を振ってみたくなりませんか?
是非、あなたの想いと共に魂振り(たまふり)を。
関連記事: