幸せのレシピ集

cawaiiとみんなでつくる幸せのレシピ集。皆様の毎日に幸せや歓びや感動が溢れますように。

探し物や片づけは思い出によって足止めされる、ちょっとしたタイムトラベルのようなものだ。

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探し物をしていると、可愛らしい英語で書かれた手紙が出てきた。

懐かしいな、と思いながら一通、一通、目を通してみる。

便箋の端は経過した時間を知らせるかのようにちょっぴり色褪せている。

どれくらいの月日が流れただろうか、私もあれから色々な経験をしたものだと、思う。

英国時代に時々、地域のお祭りなどに駆り出されていたことがある。

駆り出されて何をしていたのかというと、

「訪れた人の名前を聞き、その音、響きを漢字に変換して筆書きし、その漢字の意味を伝える」のだ。

決して安くはない価格設定と、その妙な企画を初めて聞いた時は内心、

そんなブースが流行るわけがない、と思っていたけれど、

「面白そう」という軽い好奇心だけで、引き受けた。

しかし、蓋を開けてみると異文化への興味は高く大盛況だったのだ。

 

楽しげな音楽と出店から流れてくる食べ物のいい匂いに浸る間もなく

直ぐに長蛇の列ができ、休む間もなかった。

前向きな意味のある漢字や美しいものを表す漢字を選んで、

文字の組み合わせから生まれるデザイン性を考え筆を走らせる。

目の前の依頼人と順番を待っているいくつもの視線を浴びながらの一発勝負に

若干のプレッシャーも感じつつ気持ちを込めていく。

しかし、ここから先が私にとっての本当の試練だった。

一人、一人に対して言葉や漢字の意味を説明し、

何故私がその漢字を依頼人の為に選んだのかを伝え、

それに対し質問があれば答えなくてはならなかった。

いつ底をついてもおかしくない拙い語学力と単語力にも神経を使い、

依頼人にも助けてもらいながらコミュニケーションをとる。

私にとっては「お祭り」というよりは、様々な「修行」の場となった。

 

そこそこの売り上げに気を良くした主催者から、度々オファーをいただくようになった。

書道師範の資格をこのような形で使うことになるなんて思いもしなかったし、

修行以外の何物でもなかったけれど、

その状況を楽しい、面白いと感じる私もいて時間が合えば足を運ぶようになった。

イギリス人だから言えるような無茶ぶりのアイディアを

修正したり、アレンジを加えてチャレンジしてみたりしながら、

日本と英国を繋ぐ形を模索する時間だった。

 

様々な意味で下準備は大事で、軽んじてはいけない、必要なことなのだけれども、

最終的には、その時々の自分と依頼人との気持ちの化学変化がものを言う事が多かったように思う。

お祭り前夜の緊張感で縮こまってしまっている私の気持ちを吹き飛ばしてくれるのも、

優しく包んでくれるのも、

更なる無茶振りの新しい試練を運んできてくれるのも、

その場で関わった一期一会の人たちと、その環境だった。

様々な出会いがあるけれど、

人との出会いは自分を強くし、成長させ、優しくなれる気持ちを生むのだと感じられた時間だった。

今、当時を振り返ると、もっと出来る事があったと思うのだけれども、

同時に、あれが、あの時の私に出来る精一杯だったのだと思う。

足りないことも、気付き足りなかったことも含めて、精一杯の自分。

 

当時、お祭りの度に足を運んでくださる方々がいた。

お手紙や差し入れをいただいたり、

私が書いた文字を額装してくださった写真を持ってきて下さったり、

貴重な出会いだったと思う。

冒頭の可愛らしい英語で書かれた手紙はその時、小さな女の子から頂いたもの。

 

自分の思うように物事が進まないことがある。

私は今のままでいいのかな、と思うこともある。

もっとできるはず、と自分を鼓舞することもある。

焦ったり、不安になったりしたところで仕方ないのだけれど、

そのような自分が顔を出すこともある。

その度に薄っすらとこの時の事を思い出す。

そして、今、目の前に在る出会いや環境も

きっと自分を強くし、成長させ、優しくなれる気持ちを生むはずだ、と思う。

それにしても、時に探し物や片づけは思い出によって足止めされることが多い。

ちょっとしたタイムトラベルのようだ。

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