私の子どもの頃からの癖のひとつに、一度何かを始めると没頭しすぎて寝食を忘れてしまう事がある。
正確には忘れているのではなくて、時間の感覚がなくなって、お腹の虫が騒ぎ出してようやく時間の経過に気が付くというありさま。
良くない習慣だと度々反省はするものの一向に改善の兆しはみられない。
人の癖というのは変えられるけれどそう簡単には変わらないようだ。
この日は、珍しく日が昇る前に目が覚めたこともあって、早朝から作業に集中していたら辺りは再び薄暗くなっていた。
気分転換を兼ねてキッチンに立つことにした。
冷蔵庫を片っ端から開けていく。
野菜室を覗いたら、程よい大きさのキャベツがゴロッと横たわっていた。
キャベツをたっぷりと摂りたくなった私は、シューファルシを仕込むことにした。
シューファルシと言うと特別なお料理のように聞こえるけれど、
簡単に説明するとキャベツを丸ごと使う豪快なロールキャベツのことで、フランスの家庭料理のひとつだ。
作り方も味付けもロールキャベツと同じなのだけれど、形成方法が少し違うのです。
シューファルシは小分けにせずに、下ゆでしたキャベツの葉を剥がして中心部を残します。
そのキャベツの中心部分を覆うようにロールキャベツのタネをかぶせます。
その上からキャベツの葉を覆いかぶせます。
更にその上からキャベツを隠すようにタネをかぶせます。
その上からまた、キャベツの葉を覆いかぶせます。
これを何度か繰り返してミルフィーユ状にし、最後にキャベツの葉を覆いかぶせたら、元のキャベツの形に整えます。
これをほぐれないようにタコ糸で全体を巻いて、和洋中、お好きなお出汁でコトコト煮込むだけです。
一緒に付け合わせの食材を煮込んでも美味しいです。
この豪快なお料理は、フランスの中南部辺りにあるオーベルニュ地方の郷土料理なのだけれども、オーベルニュ地方は、フランスでは最も開発の遅れた地域だったそうで、
オーベルニュはフランス語で「田舎」という意味をもっています。ここの郷土料理には、皆さんも馴染みのあるポトフやジャガイモのポタージュスープのヴィシソワーズなど、フランスを代表するお料理がたくさんあります。
そして、ヴォルヴィックやヴィッテルなどのミネラルウォーターの湧水地でもあるので、地名は知らなくても日本人もご縁のある土地です。
私がこのお料理を知ったのは、私がお世話になっていたフランス語講師宅にお呼ばれされた時。
彼女が作った豪快なロールキャベツ、いや、シューファルシを取り分けてもらい初めて口に運んだ瞬間、「(これ、ロールキャベツだー)」と思った私。
しかし、彼女の家に招かれていたフランス人たちの視線は、日本人の私へと向けられていた。
「初めて食べたでしょ、日本にはないでしょ」というような答えを期待しているであろう無言のプレッシャーを感じた私は小さな嘘をついた。
「初めて食べたけれど、美味しい」と。
何となく感じた罪悪感をそのままにしておけず、後日フランス語講師の彼女には、実は日本にも似たようなものがあるのだと打ち明けた。
すると、作って食べさせてというので作ったのだけれども彼女の感想は、「美味しいけれど小さすぎて物足りないわね、シューファルシは豪快でなくちゃ」というような内容だったように記憶している。
豪快で大雑把な彼女から教えてもらった本場のお料理は、どれも簡単で豪快な煮込み料理ばかりだけれど、どこか素朴で温かくて、彼女のようだといつも思う。
皆さんも気分を変えて豪快なロールキャベツ、シューファルシ、いかがですか?
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