幸せのレシピ集

cawaiiとみんなでつくる幸せのレシピ集。皆様の毎日に幸せや歓びや感動が溢れますように。

たかが帯の締め直しではなく、されど帯の締め直しな出来事。

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駅の改札で待ち合わせをしていた時のこと。

少し早めに着いた私は、改札の側でスマートフォンの画面をのぞき込んだり人間ウォッチングをしたりしながら、今にも噴き出しそうな汗に「出てくるな、出てくるな」と念を送りながら立っていた。

すると、1人、また1人と私の隣のスペースに浴衣姿の女の子が集まってきた。

どこかでお祭りでもあるのだろうか。

色とりどりの浴衣に身を包んだ彼女たちは、笑顔がとてもキラキラしていてエネルギッシュで、つい目を奪われた。

お箸が転がっても笑うお年頃だ。

5、6人ほど集まると、それはそれは楽しそうに豪快に笑い転げていた。

そんな彼女たちのことを、ほんの少し羨ましくもあり、懐かしくもあり、自分はまだまだだと思っているけれど随分と歩いてきたものだ、と自分の後ろに出来ている見えはしない道を振り返った。

その時、「えっ?どっち?あってる?」「逆だよ、違うよ」などといった言葉が耳に届いた。

先ほどの楽し気な空気が少し色を変えていたのだ。

どうしたのだろう、と何となく眺めていると彼女たちの1人と目が合った。

意を決したかのような眼差しで私のところへ近づくと「すみません、浴衣って右が上ですか?左が上ですか?」と尋ねてきた。

「着る本人から見て右が体にくっつくようにしてから左側を重ねるから左が上ですよ。」とジェスチャー付きで返した。

すると、輪の中の女の子を連れてきて、逆ですよねと確かめにきたのだ。

確かに逆に着ていたので頷くと、その女の子の顔からあっという間に笑顔が消えていった。

そして、一人じゃ着られないから今日はこのままでいい、と少し引きつり気味に笑った。

少しばかりお節介だろうかと思ったけれども、しぼんでしまった女の子の笑顔を放っておくこともできず、「私、着付けられるけれど……」と言ってみた。

その後は、駅のトイレへ数人で移動し、彼女の浴衣を着つけ直すことになった。

可愛らしい浴衣から帯を完全に解かれ少し不安そうにしている女の子に、「大丈夫だよ、5分もかからないから」と言うと泣きだしそうな顔で笑顔を作ってお礼を言う姿に胸が締め付けられた。

たかが帯の締め直しだけれども、この女の子にとっては一大事。

その責任の重大さに私の鼓動が早まった。

帯の形はどうする?と尋ねると、「何でもいいです」と緊張気味に返ってきた。

その後すぐ、横に居た別の女の子が「可愛くしてもらいなよ」と突っついた。

そんなに色々とできるわけではないのだけれど自分では使う機会が無くなった、リボンのような結び方をアレンジし、トイレの姿見で確認してもらった。

すると、強張っていた彼女の表情がぱーっと花が咲いたように明るくなった。

私も責任を果たせた安堵感と脱力感から笑みがこぼれた。

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利き手が右手だと言う彼女に、浴衣を着るときに迷ったら、効き手の右手を胸に入れられるように浴衣を重ねるといいよ。

と伝えると巾着の中からスマートフォンを取り出してメモし始めた。

その姿を初々しいなと思いつつ、皆で駅の改札へ戻ると待っていた女の子たちが出迎えてくれた。

何となく彼女たちのハイタッチの輪に加えてもらったのだけれども、待ち合わせ場所に到着していた私の友人が私の姿に気が付き、「何してるのっ!!」と驚き顔で駆け寄ってきた。

彼女たちに別れを告げてその場を去ろうとすると、彼女たちが何やら巾着袋の中をガサゴソとのぞき込んでいる。

「お礼になるような物がこれしかなくて」と差し出されたのは、キャンディーやチョコレート、ガムなど各々のお菓子だ。

さすがに全部は食べきれないからと言うと、「じゃぁ、一つずつ」と手のひらに渡された。

そこで彼女たちとは別れたのだけれども、そんな彼女たちの空気感はやはり、ほんの少し羨ましくもあり、懐かしくもあった。

楽しみながら、悩みながら、素敵な女性になってね。

最後のエールは直接伝えてはいないのだけれども、彼女たちの後ろ姿に向けて心の中から贈った。

甘酸っぱい一期一会な日。

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