私は大人になった今でも時々、クレヨンや色鉛筆、絵の具といったものを購入します。
偶然通りかかった画材店の前で
何本か使い終わりを目前に控えているクレヨンがあることを思い出して、
ぷらりと画材店へ足を踏みいれました。
今の私に必要なものは限られているのだけれど、
使ったことがない画材を目にするとワクワク感を抑えることが出来ず
つい、買いもしないのに手に取ってしまうのです。
本来の目的を忘れてしまいそうになる自分にハッとして、
手にしていた画材を棚へ戻すと
蝋燭のようにも感じるクレヨンの匂いのするクレヨンが並ぶ一角に向かった。
そこでふと、気づいたのです。
肌色のクレヨンがないことに。
正確には「肌色」という呼び名のクレヨンが存在していなかったのです。
久しぶりに購入しようとしたクレヨンの色は「肌色」と呼んでいた薄いオレンジ色。
欲しかった一本を手に取るとペールオレンジと記載されていた。
確かに、間違ってはいない。
より好みの1本を手にするために何社かの「肌色」を手に取ってみたのだけれど
うすだいだい色、ペールオレンジなど記されていたのです。
画材店の店主に尋ねてみたところ、
最近のクレヨン、色鉛筆、絵の具などには「肌色」の名称が使われていないのだそう。
随分と前から「あの色(うすだいだい色、ペールオレンジ)を肌色というのは差別だ」という声や、
国際化が進み様々な国の子どもたちが一緒に勉強をすることも珍しくはない昨今、
「肌色」という呼び名は教育現場で非常に扱いづらいという声があったようなのです。
そのような世の中の声を受けて2000年頃から、
クレヨン、色鉛筆、絵の具などから「肌色」という呼び名に変わって、
「うすだいだい色」や「ペールオレンジ」といった呼び方が使われるようになり、
数年後にはほぼ全てのクレヨンなどから「肌色」という呼び方がなくなったようです。
流れは十分に理解できるのだけれども、
未だに肌色という呼び名の方が主流のようなイメージがあると店主に言うと、
実際に画材を購入するお客さんや小さな子どもたちにも「肌色」で通じるのだそう。
お洋服の色などを伝える時に、
ペールオレンジ、ペールピンク、ペールカラーという言葉を使うけれど、
クレヨンはやはり「肌色」と呼んでしまうのは私だけでしょうか。
もちろん、差別の意識や意味は全くないのですが。
このような事はトップニュースとして知らされるわけでもないので、
心の準備が無いまま知ってしまうと
色の呼び名が変わっていたなんて!と、ちょっぴり驚きますね。
何をどう呼ぶのかは使う本人の意思に委ねられるのでしょうけれど、
色の呼び方ひとつを取ってみても、見方も感じ方も様々だという事実は
視点として持っておこうと感じた出来事でした。
その日私はペールオレンジと記された新しいクレヨンをバッグに忍ばせ、帰路についた。