開け放っていた窓から少しばかりひんやりとした風が流れ込んできた。
両手で両腕を2、3回擦って席を立ち、キッチンへ向かった。
1分足らずでお湯が沸くアレをセットし茶葉を選ぶ。
ティーポットにお湯を注いでじっくりと黒豆茶の出来上がりを待つ。
和風よりの器に乗せたのは、
ひと口サイズにカットした
しっとりと濃いチョコレートとナッツが印象的なブラウニー。
生クリームやアイスクリームを添えられることが多いけれど、
私は、そのままシンプルにいただく方が好みだ。
皆さんも焼き菓子のブラウニーはご存知かと思うのですが、
このブラウニーという名、どこから来ているかご存知でしょうか?
今回は、そのようなお話を少し。
意外にも、このお菓子の名前は、
イングランドやスコットランドをはじめとする西洋に広く伝わっている妖精の名前なのです。
その妖精の体は茶色の毛で覆われており、
着ているお洋服は体の色と同じく茶色なのだとか。
そして妖精のブラウニーは、人間の家や納屋に住み着くと言われているのですが、
住みついて何をするのかと言いますと、
住人が寝静まった夜中にこっそりと現れては家事や納屋仕事を手伝ってくれ、
たくさんの幸運を呼び込んでくれるのだそう。
そんな妖精なら我が家にも欲しいわ、なんて声が聞こえてきそうですが
誰もがそう思ってしまう程、とても心優しい妖精なのです。
ただ、この妖精に頼りすぎてしまったり、
家事や納屋仕事を手伝ってくれるのを当たり前と思ってしまい、
「今日はキレイにしてくれてないのね」などと口にしてしまったら
ブラウニーはその家から姿を消してしまうのだそうです。
日本で言うところの座敷わらしに似ているのかもしれないですね。
このお話は、私があるお宅のティータイムにお呼ばれしたときに、
そこのお婆さんから聞いたものなのですが、
お婆さんは時々、妖精のブラウニーに贈り物をするのだと言うのです。
贈り物というのは、美味しいパンを買って来たときや焼いたときにすぐには食べず、
しばらくの間、ダイニングテーブルの上に牛乳と一緒に置いておくのだそうです。
こうしておくと、家族みんなが笑顔で暮らせるように
ブラウニーたちが住人が気づかないところで助けてくれるのだとか。
私は、このようなことを聞いたので、
じゃぁ、ブラウニーが着られそうなお洋服とかを置いておいたら着てくれるかしら?
と発したところ、お婆さんに、口を噤んで!というジェスチャーを返されたのです。
ブラウニーは同情されるのが大嫌いなのだとか。
新しいお洋服を準備してしまったら、
住人たちが普段からブラウニーの姿をみすぼらしいと思っていたと勘違いし、
彼らは新しいお洋服を着て出て行ってしまうのだそう。
へー、新しいお洋服は着ていくんだ、と心の中で思ってしまったことは
お婆さんにもブラウニーにも内緒ですが、
多くは望まない心優しい妖精のようです。
そんな妖精ブラウニーの名がどうして焼き菓子の名前になっているのかと言いますと、
ただ単に、妖精ブラウニーの体の色とお菓子の色が似ていたからという、
とてもシンプルな説が今のところ有力のようです。
ブラウニーを口にするときに思い出すお話として伝説をご紹介しましたが、
実は私がブラウニーを口にするときに真っ先に思い出すのは、
お婆さんの口を噤んで!という本気ジェスチャーと、
あの時の真剣な眼差しだったりします。
そうそう、それともうひとつ。
妖精ブラウニーは、子ども、明るい人、正直な人であれば
出会える可能性があるようです。
ブラウニーを召し上がる際に思い出していただけましたら幸いです。