この季節の夕焼けは紅葉に負けず劣らず力強くて情熱的です。
オレンジ色の太陽が西の空に沈んだ後のわずかな時間、
太陽が溶け出したかのようにも見える残照が辺りの雲を茜色に染め上げる様は
どのような言葉も陳腐なものに聞こえてしまう程、素敵な景色です。
茜色と聞くと真っ先に夕焼けを連想するのですが、
これはアカネ科のアカネの根っこから採った染料が、
夕焼けのように黄色みを帯びた落ち着いた赤色をしていたことがもとになっているようです。
さぞかしエキゾチックなルックスの植物なのだろうと調べてみると
アカネの花は小さくて白っぽい薄黄緑色をしているのです。
たぶん、私は道端に咲いていても気づかずに通り過ぎてしまうでしょうし、
まさか茜色の染料になるとは想像もできないのではないでしょうか。
こちらが、アカネの花です。
しかし、地中に広がる根っこを見てみると、夕焼け空そのものでした。
このアカネの染料は、人類が手にした植物を使った染料の中で最も古いものなのだそう。
今ほど生活の中に色が無かった時代の人々にとっては、
それはそれは色鮮やかで魅了されたことでしょうね。
そして、この茜色の染料には染めたものの耐久性を上げる性質があったため、
古くは、鎧の札(さね)を繋ぎ合わせるための糸を染める時にも使われていたようです。
札(さね)というのは、鎧を作るための鉄や革製の小さな板のパーツです。
この板のパーツを鱗のように重ね合わせながら並べ、身を守るための鎧は作られていました。
戦国時代に鎧を身に着けていた先人たちは糸の茜色に何を思ったのでしょう。
今で言うと、少し色を変えたステッチがおしゃれだとか、スーツの裏地に凝っているだとか、
勝負服に添えられたちょっとした心意気にも通じるものがあるでしょうか。
厳しさの種類は違えど現代の私たちの様に身にまとうものに忍ばされた
日常の気分を少し底上げするもの(茜色)であったのかもしれません。
そのような事が脳裏を過ぎりつつ空を眺めていたのですけれども、
暗転のような素早さで刻々と移り行く雲と、
自分たちの時間だと言わんばかりに広がりはじめた出来立ての夜空を前に
自然は、とてもとても大きなものなのだと改めて。
色のある世界はいいものですね。