一度はベッドに潜り込んだものの、
うっかり何気なく思いついたことに思考を巡らせていたら、すっかり目が覚めてしまった。
ベッドの中でどれくらい寝返りを打っただろうか。
潔く眠ることを諦めて読みかけだった小説を手にリビングへと向かった。
シンと冷えたリビングの空気に身震いし、とりあえずキッチンで温かいゆず茶を淹れた。
ひざ掛けに使っているリビング用のふかふかとした毛布に包まって本を開いた。
その小説の中には何度か主人公の食事風景が登場したのだけれど、
主人公の好みだろうか、作者の好みだろうか、
何度目かにあたる今回も主人公はサンドウィッチを美味しそうに頬張っていた。
真夜中に読むシーンではなかったと小さな後悔が胸を過ぎった。
鳴ってしまいそうなお腹を紛らわせるために、ゆず茶に手を伸ばした。
軽食に分類されるサンドウィッチだけれども、
小説の中に登場するそれは、そこに使われている食材や食材の質、組み合わせから、
登場人物たちをより深くリアルに想像させる、ちょっとしたアイテムでもある。
そのような事を思っていると、
日常生活の中でもサンドウィッチに限らず、
いつも同じメニューを頼む傾向にあるタイプと新しい味に手を伸ばすタイプという具合に、
自分の傾向というものは無意識に表現されているようで、
「何だか人って面白い」そのようなことを思ったりもして。
そう言えば、サンドウィッチというメニューの名の由来は、
イギリスのサンドウィッチ伯爵という方のお名前が語源だと言われることがあります。
皆さんも一度は耳にされたことのあるお話かと思いますが、
実はこれ、微妙に違っております。
何がどう微妙に違っているのかと申しますと、
サンドウィッチ伯爵の「サンドウィッチ」というのは人の名前ではなく、
イギリスの伯爵位の名称なのです。
私たちが聞きなれている、
ポーカーゲーム好きだと言われているあの方のお名前は別にありました。
サンドウィッチの語源だと思われているあの方のお名前は、
サンドウィッチ伯爵位の、ジョン・モンタギュー(第4代サンドウィッチ伯爵)さん。
ですから、彼のお名前を呼ぶのだとしたら、「モンタギューさん」なのです。
しかも、サンドウィッチ伯爵位のモンタギューさんが
サンドウィッチを考えたわけでも広めたわけでもないのだそう。
伯爵がゲームを楽しみながら食べられる食事として、
お抱えの料理人が食パンに食材を挟んでお出ししたスタイルが、
いつの間にかサンドウィッチと呼ばれるようになっただけ、のようです。
私、イギリスに住むまで、サンドウィッチの由来は
イギリスのサンドウィッチ伯爵という人の名前が語源だと思っておりましたので、
イギリスの方々とのアフタヌーンティーの場で場繋ぎのような軽い気持ちで口にしたところ、
その場の全員に首を横に振られるというアウェイ感を味わいました。
このような感覚を伴う記憶はしっかりと自身に刻み込まれるようですね。
そして、真実と言うものは、いつの時代も伝わりにくいもののようでございます。
眠れぬ夜の私は小説の中身そっちのけで、
すっかりサンドウィッチに気持ちを持っていかれてしまいまして、
翌日のランチがサンドウィッチになったのは言うまでもありません。
次にサンドウィッチを召し上がる機会がありましたら、
サンドウィッチ伯爵位のモンタギューさんのお名前を思い出しつつ、
無意識に表現している自分の傾向を
サンドウィッチ選びから覗いてみるのはいかがでしょうか。