少しひんやりと感じられる外気が思いのほか心地よかったせいだからなのか、少しだけ遠回りになるのだけれど、普段は選ばない道を選んでいる自分に気が付いた。
特に変わった景色が広がっていたわけではなく、そこには、自分の知らない、それでいて馴染みある日常の風景があった。
50メートル程直進して右折すると、数本のイチョウの木が見ごとに色付いていた。
うわぁ、きれい。
すれ違う人たちに遠慮して、心の中で呟いた。
イチョウの木、と言うと私にはちょっとした思い出の景色がある。
当時通っていた高校には校舎と校舎の間にできた50メートル程の細長い形状をした中庭があった。
その中庭の両端にはイチョウの木が植えられており、秋になるとイチョウの葉が黄色く色付き中庭を彩っていた。
イチョウ並木風のその場所のイチョウの葉が散り始めると、中庭の地面をその黄色い葉が多った。
私たちはその景色をイチョウの絨毯と呼んでいた。
一度だけ、その中庭の掃除担当になったことがあったけれど、その時ばかりは先生から「イチョウの落葉掃除免除」のお達しが下るのだ。
他の皆がお掃除をしている中、中庭でイチョウの絨毯を眺めながら友人たちとお喋りをする時間は、私たちを「得をした気分」にさせていたように思う。
あの景色は、今よりも狭い世界で生きていた当時の私にとって、静かで強く生命力溢れる景色だったのだろう。
黄色く色付いたイチョウの木を目にするたびに、その場の景色が、あの頃の景色にオーバーラップするのだ。
懐かしいのとは違う、希望と不安ともどかしさが入り乱れたような気持ちと共に。
景色を満喫し終えてイチョウの葉の掃き掃除が大変になる頃、仲良くしていた用務員のおじさんが、「放課後みんなでおいで」と声をかけてくれるのも、この時期のお楽しみの一つだった。
イチョウの実(銀杏)を食べられるようにしておいてくれるのだ。
銀杏を食べられる状態にするまでにかかる手間暇や、銀杏の木に雄株、雌株があることを初めて知ったのはその時だった。
イチョウには雄株と雌株があり銀杏の実がなるのは雌株のみ。
だけれども、イチョウの実はにおいがきついため校内に植えてある木のほとんどは雄株。
だから、1人が口にできるのも1粒か2粒程だったけれど、あの時の銀杏は思い出のスパイスが効いているようで、特別に美味しかったような気がしている。
せっかくなので、食材としての銀杏の魅力を簡単にご紹介させていただきますと、
非常に栄養価が高い食材です。
炭水化物、ビタミンC、E、A、脂質、糖質、カリウム、カロテン、鉄分、マグネシウムなどが
バランスよく含まれており、中国では漢方薬としても使われています。
ただ、注意事項として、ビタミンB6の働きを邪魔して中毒症状を引き起こすことがありますので、
1回に口にする量は5、6粒程度に抑えておくことが大切です。
中毒症状というのは、嘔吐や下痢、腹痛、痙攣、消化不良、その他ありますので、
美味しくても秋の味覚、秋の恵みとして、
「ほんの少しを粋に味わう」程度にとどめておきましょう。
色付いたイチョウの葉を目にしたものだから、今年もまた、このような事を思い出してしまいました。
皆さんも、今年のイチョウの鮮やかな黄色をご堪能あれ。
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