先日、久しぶりに映画館へ足を運んだ。
照明が落とされたあのロビーの雰囲気が好き。
コツコツのヒールの音が響いてしまうような床ではなく、
足がふわっと少しだけ沈むような毛足の短い絨毯張りの床も気分が上がる。
お腹が空いているわけでも甘いものが欲しいわけでもないのに、
ポップコーンの甘い香りに「(どうしようかな……)」と、
お約束のように迷う自分に少し笑ってしまう。
飲み物を片手に上映中のポスターや、公開前のポスター、
そして、名作と言われ続けている過去の作品のポスターなどを観ながら過ごす待ち時間もいいものだ。
学生の頃は日に数本の映画をはしごする、なんてことが日常茶飯事だったのだけれども、
今になってなんて贅沢な時間を過ごしていたのだろうか、と当時の自分を羨ましく思う。
大きな映画館だけではなく、
少々マニアックな単館上映作品ばかりを扱う映画館も多く、
貴重な作品たちを通して随分と多種多様な世界を旅したような気がしている。
まるで自分もその作品の住人になったかのような気分で、
その世界を様々な視点で体験する時間は私にとって至福のひと時だった。
きっとエネルギーが有り余っていたのかもしれないのだけれども、
作り手側のことを思うならば、
もう少し丁寧にじっくりと味わってもよかったのではないだろうか、
という思いも抱いたりして。
ひとりで観る映画もいいけれど、
誰かと共に観る映画も違う味わい方ができて面白い。
共感して盛り上がることも楽しいけれど、
同じ世界を旅したはずなのに、観ているポイントも感じているポイントも違うことが分かると、
もう一度、違う視点で作品の世界を味わえたような気がしてワクワクしてしまうのだ。
だから時々、あの頃に観た映画をもう一度、観てみたいと思うことがある。
作品を味わいたいのか、当時の自分の気持ちを味わいたいのか、
その辺りは非常に曖昧なのだけれど。
結果、全く違う感情を抱くこともあるし、同じシーンでグッとくることもあって
自分らしさと自分の成長を無意識に計っているのかもしれない。
久しぶりに観た作品は、心にまとわりついてくるような甘さがあり、
鑑賞後しばらくは、その甘さに痺れたままの自分を持て余した。
時間を作ることは大変だけれども、
映画館で観るもよし、自宅でのんびり観るも良し、
今年の冬は、何か1本、映画を観てみる、というのはいかがでしょうか?
日々の様々を頭の中から、心の中から、体から少しだけ横に置いて、
作品の世界を自由に旅してみてくださいませ。
普段とは違う何かを感じられることって、素敵なことではないかしら、と思うのです。