昨年末に、1年間頑張ったご褒美にと手配していたチーズが届いたのです。
クセのあるものから万人受けするものまで各種取り揃えてみると、
なかなかのボリュームでどう美味しくいただこうかと、創作意欲がムクムクと湧いてきます。
まずは、本場のラクレットを使ってシンプルにラクレットを楽しもうと思い、準備を始めました。
今回は、その時に思い出した遠い昔のエピソードをひとつ。
フランス人宅にお世話になっていた時のこと。
家族や友人たちを招いてホームパーティーをすることになったのです。
日本人である私がいるから気を使ってくださったのでしょうね。
お料理の中にはラクレットもありました。
美味しいお料理を楽しんでいる最中、
私は隣りに座っていた方に少し離れた所にあるお塩を取って欲しいとお願いしたのです。
その方は、快くお塩を取ってくださったので受け取ろうとしたのですが
私の手をスルリと避けるよう交わし目の前にポンとミルを置きました。
行き場を無くした私の手は宙をひらひらと舞いました。
その様子を見た別の方がその私を察して教えて下さったのです。
フランスではお塩を手渡ししてはいけないのだと。
また、お塩をこぼすことも縁起が悪いことであると。
更に、今の若者たちは、ここまで気にしてはいないのだろうけれど、
歳をとった私たちにとっては無視することもできなくてね、と付け加えられました。
私は、様々な説が残されていることを後で知ったのですが
この時教えていただいた説は中世時代にまで遡るお話でした。
当時、お塩はそれはそれは貴重なものでお給料の代わりとして使われていたのだとか。
お塩を手渡しでやり取りしていた時に、そのお塩がこぼれてしまったら
渡し手、受け取り手、そのどちらに責任があるか、と大問題になるようなことだったのだそう。
問題になるだけならまだしも、命の取り合いになる可能性もあるほど、
お塩は貴重なものとして扱われていたようです。
ですから、お塩を取って欲しいと頼まれた時には、
お塩は一度テーブルなどに置いて渡し、
取って欲しいと頼んだ時にはテーブルに置いてもらってから受け取るというのです。
このような時代ならではのエピソードがもとになっている行為ですが、
時代を経る中で、お塩を手渡しするとお塩をこぼす可能性があるから縁起が悪い、
お塩をこぼすと不運が訪れる、
といった迷信のようなものとして受け継がれるようになっているのだそう。
迷信の中には摩訶不思議な世界の片鱗にふれるようなものもありますが、
よくよく覗いてみると様々な時代の景色に触れることができたりも致します。
迷信でしょ、と通り過ぎてもよいのですが、
時に立ち止まってみるのも面白いものでございます。
このようなエピソードを振り返りつつラクレットの準備をしていたのですけれど、
「ご褒美」という言葉は魔法ですね。
知らぬ間に張りつめていた気持ちをゆるゆると解きほぐしてくれるのですもの。
だけれども、その魔法を解くことも覚えておかなくては、
と頭の隅で思う今日この頃でございます。
今日も、ここへ足を運んでくださったあなたの時間が優しい時間でありますように☆彡
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