ある仕事の打ち上げで、世代の異なる女性だけの食事会に参加することになった。
食事会が開かれたのは、とても雰囲気の良いフレンチレストラン。
人数が多かったこともあり、個室へと通された。
案内されるがまま部屋へ足を踏み入れると目の前には素敵な夜景が広がっており、各々が小さくも「わーっ」と感激の声を漏らした。
声が収まると、その仕事を取り仕切っていた先輩女性がひと言。
「私に力を貸してくださったお礼に夜景をどうぞ」と。
何をどうしたら、そんなカッコいいことをサラリと言えてしまうのだろう、私の気持ちは、いとも簡単に夜景から先輩女性へと移った。
夜景で高揚した気持ちも落ち着き、女性ならではのお喋りを素敵なお料理と共に楽しんでいたときのこと。
カッコいい先輩女性は、オマールエビをナイフとフォークで器用に切り分けながら、「ワタシね、時々、オマールエビになれたらいいなと思うの。」と言った。
オマールエビに夢中になっていた私たちは、一斉に先輩へと視線を向けた。
その場の誰もがその発言の扱いに対して正解を見つけられずにいると、私の隣に座っていた同年代の女性が、あっけらかんと言った。
「どうしてですかー?こんな風に二口、三口でやられてしまいますよ」と。
すると先輩女性は、待ってましたと言わんばかりの笑みを浮かべ、オマールエビの生体について話し始めたのだ。
科学的に見るとオマールエビは死なずに生き続けられる不老不死の生き物なのだそう。
なんでも、オマールエビは、脱皮を繰り返しながら少しずつ成長するのだけれど、ただ古い殻を脱ぎ捨てて殻を新しくしながら成長していくのではなく、古い殻を脱ぎ捨てる際には、己の内臓も体から引き剥がし、全身を新しくするという。
仮に内臓疾患が現れていたとしても、その内臓までも新しくしてしまうのだから、病気とは無縁で不老不死でいられるということのようだ。
だけれども、待って。
オマールエビの不老不死の真実は、人が同じように永遠の命を手にするか、親子代々でオマールエビを見守り続けるかしない限り、辿りつけないではないか、と最後のオマールエビを口の中に運んで思う。
すると、先輩女性が話を続けた。
オマールエビは脱皮をすることで身体のサイズを成長させてくのだけれど、体が大きくなると、完全に脱皮しきれないというリスクが高くなるのだそう。
殻だけならまだしも、内臓の引き剥がしに失敗すれば死に至ることもあるし、脱皮中に他の生物の餌食になってしまうことも。
そのようなこともあり、仕組みの上では不老不死なのだけれども、オマールエビが不老不死を手にできるのもそう簡単ではないようだ。
つい、オマールエビの生体に気を取られてしまって伺いそびれてしまったけれど、仮に先輩女性が不老不死を手に入れることができたとして、彼女はいったい何をしようというのだろうか。
キャリアウーマンを極めているような彼女のことだから仕事の野望か、はたまた、アンチエイジングという意味での不老不死だったのか、
いつかまた、お会いする機会があった時には、その真意をこっそり教えていただこうと思っている。
もしも、不老不死が手に入るとしたら、あなたは手にしますか?
私は残念ながら、目の前のことでいっぱいで、それを手にする余裕も、オマールエビのようなリスクを背負う勇気も持ち合わせてはいないようです。
今日も目の前のことから一つずつ丁寧に、いい塩梅、いい加減でまいりたいと思います。
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