近所にある創作イタリアンレストランへお昼を食べに行った。
そこは駅からは分かり難い場所にある上に、
ここは道かしら?入っても大丈夫なのかしら?と
一瞬、躊躇してしまうような足元の悪い細い路地を入ったところにある。
一見するとお客に優しくないようにも感じられるけれど、
このような、ちょっとした不便と言うものが、
時に隠れ家のようにも感じられ、人を引き付け魅了する。
お昼には少し早い時間だったこともあり、すんなりと席に着くことが出来た。
注文を済ませてお水を喉奥へと流し込んで辺りを見回すと、
外国人観光客らしき人たちのテーブルがいくつか目に入った。
こんなに分かり難いお店をどうして彼らが知っているのだろうかと不思議に思ったけれど、
今はSNSも充実している。
きっとその類からの情報なのだろう。
運ばれてきた本日おすすめのパスタに心躍らせつつ、
フォークでクルクルクルッと巻き上げ、そのような事を考えてる。
すると、私の横のテーブルに座っていた外国人観光客カップルの会話が
途切れ途切れに耳に入ってきた。
要約すると、「日本ではパスタを食べる時に、みんなスプーンを使うの?」といった内容。
日本でパスタを食べる時、お作法と呼べるほどのものは、まだ確立されていないように思う。
だから、お箸で食べることもあれば、
フォークとスプーンで食べることもあり、
フォークだけを使って食べることもある。
お店側も「お好きなように、美味しく召し上がれ」といったスタンスのことが多い。
だけれども、本場イタリアではスプーンは使わずフォークだけで食べる。
イタリアや近隣諸国でスプーンとフォークを使って食べていたら
「まぁ、あの方はフォークだけでは食べられないのね。子供みたいね」
と言ったことを思われてしまうのだ。
このようなことにまで拘りぬいているイタリアンレストランでは
日本であってもフォークだけのスタイルを取っていることが多い。
私はその辺りにはあまり拘りは無いものの、知ってしまっていることでもあるため
その時々のお店の様子や一緒に食事をする相手によって、
カトラリーを替えるようにしている。
そして、この時はというと、お店の方がキレイに並べ置いてくださったスプーンとフォークがあった。
郷に入っては郷に従えではないけれど、躊躇うことなく両方を使っていた。
そう、目の前のパスタに心躍らされつつ、
スプーンも使いながらリズミカルにフォークでクルクルクルッと巻き上げて。
そのような私をちらちらと横目で見ながらの彼らの会話だ。
きっと、英語での会話なら内容を悟られないだろうと油断したのだと思うのだけれども、
筒抜けだった。
だけれども、そこでスプーンを横に置いてしまうのは違うような気がして、
「ここは日本だ、初志貫徹」と自分を励ましながらパスタを完食した。
もともとは、スプーンは使わずに食べるものなのだけれど、
アメリカではスプーンを使った方がミートソースなどが食べやすくなる
という考えのもとスプーンを使っていたという。
そして、日本にはイタリアのスプーンを使わないスタイルと、
アメリカのスプーンを使うスタイルの両方が入ってきた。
そこに日本のお箸文化も当然のように加わり、様々なスタイルが共存している。
とは言え、どのような状況に置かれたとしても、
その都度その場に適した方法を選んで美味しく食べることができるに越したことはない。
もし、スプーンとフォークで食べるスタイルに慣れきってしまっている方は、
いざという時のために、一度、フォークのみで召し上がってみてはいかがでしょうか。
それにしても、聞こえていないふりというのも、ときに難儀なものだ。