子どもの頃から石が好きだった。
ジュエリーと呼ばれる類の宝石やパワーストーンと呼ばれている天然石、
大自然の中にでんっと鎮座する巨大な石、
姿形は違うけれど、どれも各々の魅力をキラキラと解き放っているみたいに見えて、
黙って長い時間眺めていられるような所があった。
子どもの頃の純粋な思いや感覚は潜在意識に近いものがあるのだろう。
大人になり不思議な縁が数珠繋ぎとなって、
石に携わるお仕事のご依頼をいただくことがある。
趣味として楽しもう、そう何度線引きをしても完全に途切れることがないのは、
ひとつのご縁の形なのだろうと腑に落ちてからは自然の流れに身を任せることにしている。
石や石の世界に触れていると、石好きの贔屓目を差し引いて見ても
これは不思議だと感じるエピソードや出来事に出会うことが本当に多い。
今回は、その中で割とよく見聞きするお話を少し。
「石は持ち主のもとで成長する」と言われることがある。
様々な視点と解釈、そして数々のエピソードがあるけれど、
その中のひとつに、分かりやすくサイズが変わる、石が大きくなるというものがある。
私自身も一度だけ経験があり、現在も観察が続いている。
7、8年ほど前に入手したブレスレットに並んでいる石は、幅3ミリ弱ほどの小粒の宝飾石。
4、5年経った頃だったと思うのだけれども
ふと、鏡に映ったブレスレットに肉厚を感じたためサイズを測ったことがある。
すると、全ての石が4ミリ前後にまで成長していたのだ。
たかが1ミリだけれども、全ての粒が1ミリずつ成長すれば、サイズ感も印象も変わる。
よく見聞きする話で珍しいことではないものの、
いざ自分がとなると「私の気のせいかしら」という思いが現れた。
そこで、メンテナンスを口実に「変なお話かもしれないのですが……」と前置きをした上で事情を職人に説明すると、
「すぐに分かりました。商品にする石のサイズは決まっているため、
見ただけ、触れただけで、石の変化には気付きます。大きくなりましたね。」と返ってきた。
やっぱりそうなの!?私の気のせいではないのよね!?そうだと思ったの!
たたみかけるようにして現れる感情が顔に出ていたのか、
そのブレスレットデザインに使われている石を見せてくださった。
当たり前だけれども、全て同じサイズにカットされた石たちがお行儀よく並んでいた。
その横に、私のブレスレットを並べてみると一目瞭然だった。
やっぱり石も生きているんですね、とポロリと口からこぼれた。
それを聞いた職人は手を動かしながら口元を少しだけ緩めて、
「アクセサリーになったからと言って、お守りになったからと言って、
石は死んだ訳ではないですからね。
人工的に作られた石でない限り、はっきりと目には分からなくても成長してますよ」と。
この体験から私はつい、所持している石のサイズを測ってしまうのだけれども、
分かりやすい変化はそう簡単には見せてくれないようだ。
そんな一筋縄ではいかぬところも、私が石を好きな理由のひとつなのかもしれない。
お値段や価値と言われるものは、
ある視点を基準にして人が付けたものに過ぎない。
石に限らず本当の価値は自分で感じ取りたい。
お気に入りのブレスレットに並ぶ、
ぷっくり肉厚を感じられる石たちを指先で触れながらそのようなことを思った。